本ガイドラインにおける「研修」は、「OFF-JT(業務を離れての研修)」を指し、「職場内研修」と「職場外研修」に区別します。
職員の育成には、「OJT(業務を通じての育成)」のような日常業務で指導を行うことが効果的な場合もありますが、日常業務から離れて日頃の仕事を振り返る「研修」が、より専門的な知識・技術・価値観を学べる機会となる場合もあります。
また、同じ職場や別の施設・事業所、異業種の人との交流を図れる機会でもあり、知識と情報を得ることもできます。このような機会を通して、職員のスキル・キャリアアップを目指します。
※以下、本ガイドラインに基づく内容を掲載します。
目次
1.研修推進体制の構築に向けた取り組み
a.時間の確保
ア.経営者・管理者が行う管理
業務を離れて行う研修実施に際して、「時間」の確保は大きな課題です。
経営者・管理者は、施設・事業所の各部署などにおいて、「緊急度」と「重要度」の観点から優先すべき業務を把握した上で(図13参照)、余裕ができる日・時間はないか、スケジュールを確認し、施設・事業所の人員配置や勤務体制の見直しと、研修に係る時間(研修実施や研修の企画・運営等に係る時間)の確保について検討することが必要です。
また、研修を基本業務の一環として、業務計画に明確に位置付ける必要もあります。
頻繁に時間を確保することが難しい場合でも、初めは月1回から研修に係る時間を設けるというように、徐々に日数・時間を増やしていくことも考えられます。できることから始めていくことが大切です。
※この図は例示であり、仕事の優先度は、各施設・事業所によって判断されるものです。
図 13 仕事における時間管理の領域
イ.職員個人が行う管理
研修参加に要する時間とは別に、研修の事前学習に係る時間や報告書作成に係る時間など、職員個人の日々のスケジュールの中で、時間の使い方の工夫やスケジュール管理が必要なこともあります。職員個人においても図13に示す仕事の優先度について考え、日々の業務スケジュールを見直すことが必要です。
しかし、職員個人が優先度を決めることが難しい業務もあります。そのような業務については、経営者・管理者の判断に基づくものとして、組織全体でどのように捉えるか取り決めておくことも必要です。
図 14 1日の業務スケジュール(例:児童養護施設に勤務する職員の日勤スケジュール)
b.予算の確保
職場外研修への派遣に係る費用や研修推進体制の構築を進めるために必要な予算を確保していくことは不可欠です。
経営者は、人材育成の重要性を理解し、必要な予算を確保していくことでより充実した研修推進が図られることを十分に認識しなければなりません。また、職員は研修効果を経営者に示していくことで必要な予算の確保に努めることが必要です。
2.施設・事業所における研修推進体制の仕組み
a.責任者等の役割
効果的に職場研修を進めるためには、まず実施体制を整備することから始めなければなりません。
それにはまず、経営者、管理者及び各職員の役割を明確にすることが必要です。
経営者及び管理者は、人材育成に積極的な関心をもち、職場研修の「理念」や「方針」を示すとともに、職場研修を推進できる環境づくりを行っていく「責任者」としての役割を担います。
また、経営者及び管理者は、職員の指導育成を行う責任があることを認識し、「研修担当者」の役割について事務分掌等で明確にし、職員に周知していくことも必要となります。
さらに、管理者や指導的職員は、日頃の業務を通して職員を指導・育成する役割が本来の業務であることを認識し、指導技術の研鑽に努めることが必要です。
b.研修担当者の役割
「研修担当者」は、経営者や管理者と連携をとりながら、研修に係る計画・実施・評価といった一連の研修管理サイクルを推進していく、職場研修の実務(研修管理)者となります。
また、研修担当者を複数名配置して、研修委員会を構成し、施設・事業所の研修年間計画に沿った企画・運営を行うことも効果的だと考えられます。
より現場の実態を反映し、施設・事業所全体の課題把握や研修ニーズへの対応、研修への参加促進等を図るため、多様な職種及び階層の職員の参画が望まれます。
しかし、最も重要なのは、これらの役割に関わらず、各職員の自己啓発に対する意識の高さが職場研修を実施していく上で不可欠であるということです。そのためには、「職場研修の主人公は職員自身」であるということを周知し、理解を促していくことが大切です。
○ワークシートを用いて、施設・事業所での「研修委員会の構成」を考えてみましょう!
・研修担当者は、「経営者」「管理者」「職員」という3者への働きかけが必要です。
・研修委員は、様々な部署・職種・階層の職員によって構成されると、より多角的な視点から研修を企画・実施・評価することが可能となります。
・研修委員会の構成人数については、施設・事業所の判断により設定します。
図 15 研修委員会の構成
c.研修担当者の養成
研修担当者は、職場研修を計画的・効果的に実施していくために、必要な知識や技術等を身に付けることが望まれます。
研修担当者として選んだ職員を、職場研修担当者を養成するための研修へ派遣するなど、積極的に外部研修を活用し、養成に努めていくことが大切です。
d.PDCAサイクルを用いた研修管理
職場研修は、PDCAサイクル(計画【PLAN】⇒実施【DO】⇒検証【CHECK】⇒修正【ACT】)により管理することが必要です。
研修担当者は、責任者(経営者・管理者)と連携し、短期・中期・長期的視点で計画を策定し、研修を進めていく必要があります。
本ガイドラインでは、単年度(1年間)の場合を例に研修管理の方法を示しています。表10は「研修推進の手順」を示したものです。
これを参考にしながら、各施設・事業所における研修の取り組みを進めましょう。
○ワークシートを用いて、施設・事業所での「研修推進の計画」を立てましょう!
- ここでは、研修委員会や研修担当者だけの取り組みだけでなく、経営者や管理者の関わり等も考え、示していくことが必要です。
- 定期的な委員会の回数等は、施設・事業所の判断により設定します。
ワークシート集 P.12
表 1 研修推進の手順(設定期間:1年間の場合の例示)
3.研修企画から実施に係る一連の流れ
●次からは研修に係る一連の流れを説明しています。
職場年間計画シートやスケジュール表等のシートを活用しながら、施設・事業所において実際に研修を進めてみましょう!
ワークシート集 P.18~19
ア.施設・事業所の現状(ストレングス・課題等)の把握
ガイドライン第2章「4 経営理念に基づく人材像」(P.13参照)で示す経営理念、目標、求める人材像や施設・事業所の方針を確認しながら、前年度(次年度の計画を立てる際には「今年度」)の施設・事業所における研修の取り組みを見直し、残されている課題、新たな課題を把握します。また、これらの課題等に優先順位をつけ、最優先に取り組む必要があると考えられる重点項目を明確にします。
その際、「職場研修年間計画シート」(ワークシート集 P.18)を活用します。
ここでは、課題だけでなく、前年度に達成できた点、施設・事業所がストレングス(強み)とする点を明らかにすることも重要です。(ここで挙げる達成できた点やストレングスは、施設・事業所が今後さらに伸ばしていくものとして、常に取り組むテーマとなる可能性があります。)
イ.目標設定及び目標に沿った年間スケジュール表の策定
○「職場研修年間計画シート」で、重点項目・テーマ等を明確にした後、「職場研修年間スケジュール表」(ワークシート集 P.19)を活用し、1年間の研修スケジュール表を策定します。
○「職場研修年間計画シート」で明確にした重点項目・テーマ等や、ガイドライン第3章で策定した各階層の定義及び各階層の到達目標を再確認し、「階層別」、「職種別」に必要と思われる研修内容を考えます。
※研修内容を検討する際は、標準研修カリキュラムが活用できます。
○研修内容が決まったら、職場内で実施が可能な研修(職場内研修)や、職場外へ派遣する研修(職場外研修)※を検討します。
また、職場内研修の実施時期や職場外研修への派遣時期も設定します。
※職場外へ派遣する研修については、「沖縄県福祉研修支援サイト(福祉研修情報ナビ)」において、県内の福祉研修情報等が検索できます。
○スケジュール表を策定した後、職員に対して内容を周知していくことが必要です。
※職場外研修は、職員が利用者支援に関してより専門的知識・技術を学んだり、経営者・管理者等が最新の制度・施策を得るなど、外部に派遣することがより効果的な場合に活用することを想定しています。
また、職場外研修で習得し、職員が共有すべき内容については、職場内研修における伝達研修等によって職員への周知に努めることが望まれます。
ウ.計画に沿った職場内研修(個別研修)の実施
◎職場内研修(個別研修)の企画から実施まで
策定した「職場研修年間スケジュール表」を参考に、個別研修のプログラムを立案します。
その際、「1.研修目的」、「2.研修内容」、「3.講師」、「4.研修手法」に加え、「5.研修開催の日時(研修時間)」「6.開催場所」等について具体的に決定していきます。
また、研修目的等を職員間で共有するためにも、研修要項等を策定すると良いでしょう。
企画から実施の流れについては、図16のフローチャートに例示しています。
図 16 研修企画から実施までのフローチャート(例)
◎研修実施から評価まで
研修当日は、時間管理を綿密に行い、進行表にしたがって円滑な研修実施に努めましょう。
特に、グループワーク等時間を使うプログラムの際には、講師と連携しながら臨機応変な対応が求められる場合もあるので注意しましょう。
また、研修終了後は受講者に対するアンケートや研修担当者及び責任者による評価、講師への聞き取りによる評価を行うことも大切です。
主観的評価と客観的評価を組み合わせ、多角的な視点で研修全体の評価を行い、その内容(課題・達成できた点等)を研修の見直しに繋げていきましょう。
表 11 研修の評価方法
エ.計画の見直し・確認
年度途中でも、定期的、又は必要に応じて、課題等の再確認を行い、職場内研修の開催や職場外研修への派遣が必要かどうかなど「職場研修年間スケジュール表」の見直しを行う必要があります。
また、「職場研修年間スケジュール表」に基づいた1年間の研修日程が終了した後、研修全体の振り返りを行い、「今年度達成できた点」や「残された課題」を明確にし、次年度の計画に繋げていくことも必要です。
その成果・課題の把握については、「職場研修年間計画シート(再掲)」を、次年度の計画をスケジュール化するには、「職場研修年間スケジュール表(再掲)」を活用します。
4.標準研修カリキュラムとシラバス
専門的な能力は、実務経験と学習の相互作用によって向上が図られます。職務を通じて育成を図るOJTの推進だけでなく、職務を離れてのOFF-JTの充実によって、職員は生涯を通じた能力開発に取り組むことができ、職員一人ひとりの能力を最大限に発揮することができます。
ガイドラインで提案する標準研修カリキュラムは、初任職員、中堅職員、指導的職員、管理者及び経営者の5階層を想定し、各階層の職員に必要な知識、技術、姿勢等が含まれます。
標準研修カリキュラムの内容には、一施設又は一事業所内で実施が可能なものもあれば、施設・事業所間の連携によって、あるいは支援団体による実施が必要な研修も含まれます。まずは、一施設又は一事業所内で実施が可能な研修を優先的に考え、職場研修計画やスケジュール表を策定していく際に活用しましょう。
また、標準研修カリキュラムに沿ったシラバスでは、高齢・障害・児童などの分野に限らず、福祉従事者として必要な「共通内容」と高齢・障害・児童の各分野に必要な「専門内容」を踏まえ、具体的な研修内容、キーワード、標準時間等を示しています。職場研修年間スケジュールを基本に、個別研修の企画立案を進めていく際や講師との研修内容の調整の際に活用できます。