社会福祉法人のチャレンジ
~新たな社会福祉法人像の構築~ 

「社会福祉法人 松籟会」~地域に屋根のないホームを~

一.法人・施設の概要
 ▼法人名=社会福祉法人松籟会
 ▼理事長=仲兼久 文政
 ▼事業所名=特別養護老人ホームかりゆしぬ村
 ▼ 施設長=仲兼久 文政
 ▼住所=名護市宇茂佐一八七三-一
   電話=〇九八〇-五三-一九三四

ニ.地域貢献事業の概要
 ▼事業名=在宅老人夜間巡回(ナイトパトロール)福祉サービス事業
 ▼事業内容=施設職員と地域ボランティア(福祉隣り組)が一緒になり、市内遠隔地・山村地域に住む独居老人等を夜間巡回訪問し、安否確認等を行う。
 ▼開始年月日=平成六年十月十九日

三.実践に至った経緯と現状、課題
 「昨晩は気分が悪くてね、もしかしたら死ぬんじゃないかと不安で眠れなかったよ。」特別養護老人ホームかりゆしぬ村のデイサービスに通う利用者が、職員に漏らした声である。それを聞いた職員は、「ハッと」胸を突かれるような思いを受けたという。「これまで、利用者が夜間どういう生活不安を抱えているのか気にはしていたが、適切な対応策を考えきれなかった。それが利用者の一声で法人としてどういう支援ができるのか考える契機になった」と、今から約十年前の様子を仲兼久所長は語った。
 ゴールドプラン以降、高齢者福祉サービスの基盤整備が図られたが、在宅の高齢者の夜間時の緊急対応は今なお不十分だ。名護市の場合、特に山間、遠隔地に住む独居老人の緊急対応ついて役所や関係者間で検討がされてきたが、事の重要性から一刻も早い事業開始が望まれるため、法人の自己財源を投入し、全国的にも例がない取り組みが動き出した。
 事業開始当初、特養と併設するデイサービスセンター・在宅介護支援センターの職員らがボランティアにより、二人一組で独居老人等を訪問し、体調をチェックしながら食事の摂取状況、火の元の安全等を確認した。対象者二十人をニコースに分け、一軒あたり週ニ~三回、約二十~三十分の時間をかけ滞在していたが、夜間一人で過ごす寂しさから、時間を忘れる程会話が弾んだ。当初、「そんな短時間で意味があるのか」と批判されたが、訪問中に倒れた老人が救急病院に運ばれ、一命を取り留めた例もあったという。当時の現場責任者の国場多津子在宅福祉課長に話を伺った。「私達が定期的に訪問することにより、デイサービス利用中には気づかなかったことを本人が教えてくれるようになった。利用者との信頼関係を実感した瞬間でした。何より職員が地域をより知ろうとする意識が芽生えたことは、法人の大きな財産になりました。」
 法人がこれまで培ってきた介護のノウハウを地域に提供・還元することは簡単だ。大事なのはその方法にある。地域住民が持つ感性を無視して、ノウハウや人的資源等を投入しても、それは単なる押し付けに他ならない。老人の不安が大きくかつ他の機関では対応できない夜間の見守りは、家族や地域住民からの期待も大きかった。法人と職員の地道な活動が地域に伝わり、やがて住民自ら協力員となり子供会も一緒に協力する等、担い手の裾野が広がった。
 実は、法人の本当の狙いはそこにあった。「法人が前面に出るのは最初だけ。きっかけさえ作れば、後は地域が自然に考える。地域ができることは地域に任せ、法人は後方支援に徹する。」と仲兼久所長は語る。そこには法人と地域の役割分担や関係性が線引きされた「地域の未来デザイン」が描かれていた。
平成七年、これまでの実績が認められ、県単独補助モデル事業として衣替えした。補助事業が切れた今でも、協力員の手による巡回訪問やミニデイサービス事業が実施される等、「地域の福祉力」が着実にレベルアップした。今後は関係者間の課題の共有化と役割分担を明確にしながら後方支援のあり方を模索することが必要になってくるであろう。

四.今後の展望
 松籟会は今、地域の福祉力を支えるために、法人機能の地域展開の方策を検討している。最近整備した宅老所やグループホーム等に相談機能を持たせた「地域サテライト構想」がそれだ。法人と独居老人という点と点で始まった事業が、地域を構成する様々な関係者間の幾重もの線で繋がった時、「安心」「信頼」がキーワードの「地域に屋根のないホーム」が実現できるのではないだろうか。

五.今回のチャレンジに思う
 「このサービスは先駆的な事業とは思っていない。当たり前のことを当たり前にやっているだけ。」松籟会の経営理念は単純明快だ。その当たり前ができないために社会福祉法人の公共性・公益性が今問われている。この経営理念と職員の「気づき」が重なり、地域にそのアンテナがしっかり向いた時、地域の福祉力「再生」の大きな原動力となることを示してくれている。

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福祉情報おきなわVol.97(2004.9.1)
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