特集
宅老所・グループホームを考える
介護保険制度開始から四年、高齢者福祉を支える社会基盤整備が進められる中で、介護保険制度以外でも高齢者介護の受け皿が広がりを見せている。その中の一つが、「宅老所・グループホーム」。家庭的な雰囲気の中で支え合って暮らす場を提供する宅老所・グループホームに注目が集まっている。今回は県内の宅老所・グループホームを追ってみた。
『小規模多機能』ケア
宅老所とは、「地域密着」「小規模」「多機能」の性格を備えている施設をさす。具体的には身近な地域にあって家庭的な雰囲気の中で日中を過ごすことができ、必要に応じて、泊まり、居住、通い、出向き、マネジメントといった機能を提供する施設である。様々な機能を備えることで介護コストの効率化と利用者ニーズへの柔軟な対応の両面を実現することができる。改装した民家など既存の建物を利用して開所することが可能であること、NPO法人や有限会社などの民間参入がしやすいことなどを背景に、急速に各地に広まっている。また、小規模の集団が同じ屋根の下で共同生活するグループホームは主に痴呆性高齢者ケアの分野での実践が進んでいる。
沖縄の宅老所・グループホームの広がり
初めて沖縄に宅老所ができたのは平成五年、名護市の「ケア付き託老所 浅茅の里」(施設長、座波園子さん)のオープンである。制度も補助金もないままボランティア的な形でスタート。「高齢者の思いに添ったケアを」との強い熱意と周囲に支えられての運営であった。
その後、介護保険制度のスタートを契機に、介護保険事業所を併設する形で宅老所が各地に広がってきた。地域密着型で利用者主体の小規模多機能ケアを実践する宅老所が増えていく一方で、「介護ビジネス」への民間業者参入により商業主義を目指す所も少なくなかった。
そんな中、平成十二年には有志により「宅老所をつくろう会」が発足。毎月一回の会合をもち、経営理念や職員モラルについての勉強会がスタートした。翌年には、全国組織である「宅老所・グループホーム全国ネットワーク」やメディア、学識経験者の後押しもあり「沖縄県宅老所・グループホーム連絡会」設立に至る。
同連絡会には現在、十八の施設が加盟し、各種フォーラムや連絡会議を重ねている。事務局長の仲間勝弘さんは「サービス向上には経営者の研修は大切。横の連携を大事にしたい」と連絡会の意義について語った。
浅茅の里・利用者の声
「ケア付き託老所 浅茅の里」を訪れた。この日はデイサービスセンターに利用者約二十名が集っていた。施設長の座波さんは「民家を改装してバリアが多少残っても、そこに支えあうケアが生まれる。自力で動くことで介護度も自然と改善される。」と話した。また、宅老所の利用による介護費用の抑制、開設に伴う雇用拡大などの効果についても強調した。
浅茅の里ではリハビリやレクリエーションなど利用者が思い思いに過ごしている。そんな中でも、利用者の隣には必ずスタッフや他の利用者が寄り添っていた。二年半前からここを利用する仲井間次郎さんは三線を弾くことが日課、「ここでの生活は楽しい。とても助かっています。」と微笑んだ。
宅老所・グループホームのこれから
これからの宅老所のあり方について、座波さんは「宅老所の多機能性を多角経営と履き違えるのではなく、それぞれのお年寄りにあったケアを提供できる『本物の介護』を目指していきたい」と語る。また、「病院や大型施設の退所者の『受け皿』にとどまることなく、在宅生活に戻すためのケアを実践するのだとの視点も大切にしたい」と話した。
介護保険事業所と併設により、設備やスタッフを効率的に運用することが可能になった。これからはそのメリットを十分生かしてそれぞれの宅老所が多様なカラーをもち、サービスの幅を広げ、色々な選択肢を利用者に提供することが期待される。
県長寿社会対策室では、宅老所・グループホームの今後については「自己評価を補完する外部評価が17年度より義務付けられる。その確実な実施を通して、サービスの質の確保に努めると共に、信頼できるケアを提供することを期待する。」とコメントした。
最後に
現在、社会保障審議会にて検討が進められている介護保険制度の見直しにおいて、地域密着型サービスの充実の方向性が打ち出されている。よって宅老所のような小規模多機能型のサービス提供の形態が今後ますます普及するものと思われる。もちろん既存の福祉施設においても介護や自立支援に大きな役割を果たしており、双方の特性を生かした介護の受け皿づくりが必要である。
《鍵言葉(キーワード)》
託老所と宅老所
宅老所は1980年代にこれまでの大規模施設のケアのあり方に疑問を持ったボランティアグループや施設職員等が自然発生的に集まり、スタートした。
当時は、特定の呼び名がなく「託老所」や「デイホーム」など様々な呼称が用いられた。宅老所がそれぞれの地域のニーズを吸い上げ、柔軟な活動を続ける中で、「利用者の居場所として自宅と同じように過ごしてほしい」との位置づけが図られ、「宅老所」との呼び方が多く用いられるようになっている。
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福祉情報おきなわVol.97(2004.9.1) |
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