シリーズ 活動最前線

終末医療と人権 ~オリブ山病院緩和ケア病棟~

 首里の閑静な町並みのなかにあるオリブ山病院。キリスト教の精神を重んじるこの病院内に「緩和ケア病棟」が設置されている。一般的には「ホスピス病棟」と呼ばれることもあり、県内ではオリブ山病院が最初にその取り組みを始めた。

 ホスピスケアとは
 ラテン語で”あたたかくもてなす”という意味を持つ「ホスピス」。高度に医療が発達する現在、不治と向かい合う終末医療のあり方の一つとして、ホスピスケアが存在する。ホスピスケアとは、一般的に末期ガン等に苦しむ患者に対し、延命治療を行うのではなく、病気やガン治療による痛みを取り除き安らぎを与える緩和医療。不治と向き合い、短い余生を充実して送れるという利点がある。
 オリブ山病院でホスピスケアの取り組みを開始したのは1983年から。当初は1、2床の規模で細々とした取り組みであった。95年には、専門病棟が完成し本格的に取り組むなか、ベット数も7床から15床へ、そして現在では23床へと拡大している。
 病棟内の壁は薄いピンク色。ホスピスケアにおいては、壁に落ち着いた色よりも、活力が湧き出る赤系の色を使用することが、患者の沈んでいく気持ちに対して有効になる場合もある。
  
 入院患者は末期ガンの患者が中心。年齢層も高齢者が比較的多いが、30歳代から50歳代の入院患者もめずらしくない。また、時には20歳代の患者も入院してくることもある。入院期間も人それぞれであるが、平均すると約2ヶ月から3ヶ月。特に若い世代の入院患者は生きることへの意欲が強い分、身体的・精神的苦痛も強くなる。

 痛みのコントロール
 ホスピスケアにおいて重要なことの一つに、痛みのコントロールがある。入院患者は、身体的、精神的など、さまざまな面で苦痛を背負っている。オリブ山病院では、キリスト教の精神のもと、チャプレン(牧師)を病院内に配置し、希望の患者にはカウンセリングも行っている。毎日開かれるお茶会の前には牧師とともに、賛美歌を歌う。病院とは思えないほどゆったりとした空気が流れているなか、患者もゆっくりとした時を過ごす。患者に対するストレスを抑えるため、スタッフも病棟内では走ったりしないように心がけている。
 精神面でも家族との時間を多く過ごせるよう、ファミリールームも設置されており、病室内もできるだけ共に過ごしやすいようソファーなどが設置されている。少しでも治療の可能性を求めて数々の病院を回り、やがて悲しみと共にこの病院にたどり着いたとき、痛みを背負っているのは患者だけでなくその家族もまた同じ痛みを味わっている。病棟スタッフはその家族の心のケアのためにも家族と過ごす時間を多く取り入れた活動に取りくんでいる。
  

 ホスピスの誤解
 オリブ山病院院長の上間一氏は、ホスピスケアの意義について「本来のホスピスケアの意義は、患者の苦痛を和らげ、余命を有意義に過ごす手伝いをすることにある」と説明した。しかし、「まだまだホスピスケアは一般の方に誤解されている部分がある。ホスピスは”死を待つ場所”や”安楽死”という間違ったイメージから誤解されることがある」とホスピスの誤解についても話した。「外出・外泊もできれば、病院内でペットと過ごすこともできる。もちろんできる限りの治療は行う。私たちは、生きることに対する積極的な姿勢でもって患者と接している。」と語った。
 また、今後について、「まだまだ先の話ですが、ホスピスの社会的役割が認知されてくると、いずれは在宅でのホスピスケアも始まるでしょう」と将来像についても語った。
  

 「死」を見つめ「生」をまっとうする
 生きているうちから「死」に対する心構えをもつことは、自己の尊厳にもつながることといえる。特に「死」という問題をどう見つめるかは入院患者のみならず、全ての人にとって重要なこと。余命数ヶ月。ひとりの人間として尊厳のある「生」をまっとうする。たとえあとわずかだとしても、最後まで生きている人間であることは事実である。そこには「ホスピスケア」という選択肢も芽生えはじめている。

 今年度の活動最前線は「人権」を共通テーマに6回に渡り取材を行った。そこには決して表面的には現れない「少数派」でありながらも、これらの人々を支えようと情熱と信念をもとに意義ある活動を展開している場面と多く出会えることになった。
 人権は障害や年齢、性別を問わない最も基本的な権利であり、社会福祉を推進していくうえでも特に擁護していかなければならない。関係者ともどもこれを再認識しの活動への支援が高まるよう期待したい。



福祉施設経営相談Q&A

Q.今年1月に施行された改正労働基準法の「解雇に関する規定の整備」が求められましたが、具体的に教えて下さい。

A. 労働基準法では、就業規則の絶対的必要記載事項に「退職に関する事項」を規定しています。しかし、就業規則に解雇事由を記載していなくとも、違法とはいえない状況でした。平成13年に、「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」が施行されたところ、解雇に関する紛争がきわめて多い事が明らかになってきました。相談件数の約3割は、解雇に関する相談です。
 このような背景から、今回の労働基準法改正では、「退職の事由」に「解雇の事由」が含まれる事が明文化されました。これにより、どのような理由で解雇されるのかは、就業規則に記載される事になり、事業主は、職員に対し、「解雇事由」についても、周知義務をおう事になりました。
 具体的な事由については、特に制限が設けられている訳ではありません。ただし、学説では、「列挙された以外の事由による解雇は許されない事となろう」(菅野和夫著「労働法」第6版)という説が一般的です。したがって、できる限り詳細な解雇事由を規定する事が、後々のトラブルを防ぐものと思われます。
 現在、福祉施設経営支援事業において、県内の社会福祉法人・施設等へ巡回相談を実施した際に、就業規則の解雇事由の規定が「その他全各号に掲げる事由に準ずる事由がある場合」と、包括的な表現になっている場合が多くみられました。ただし、その規定自体は残しておきたい項目ですが、それ以外に、具体的な解雇事由を規定して、就業規則が、解雇事由に該当する行為の抑止になるように、具体化しておくことをお勧め致します。


(回答者:福祉施設経営支援事業専門相談員 社会保険労務士 江尻育弘)



(前のページ)

(トップページ)

(次のページ)


福祉情報おきなわVol.94(2004.3.25)
編集発行 沖縄県社会福祉協議会 沖縄県福祉人材センター
〒903-8603 那覇市首里石嶺町4-373-1 TEL098(887)2000 FAX098(887)2024



-ふれあいネットワーク-

〒903-8603 那覇市首里石嶺町4-373-1

社会福祉法人
沖縄県社会福祉協議会

Tel 098(887)2000  Fax 098(887)2024
Copyright(C)沖縄県社会福祉協議会
CLOSE