足元から築く、地域の見守り体制
「一人暮らし高齢者マップ」作成・城前自治会(沖縄市城前町)

 
 沖縄市城前町はコザ十字路の一角を占め、戦後まもなく多くの転居者がこの土地で商売を始め、コザの中心部のマチグヮーを形成していった地域である。  
 この地域で、自治会(内間満自治会長)を中心に高齢者マップの作成などによって地域のつながりを再構築する活動が進められている。



住民自らの足で作成した「一人暮らし高齢者マップ」

▲公民館の連絡先が記載されたチラシを作成・配布した。写真は内間満自治会長。
▲公民館の連絡先が記載されたチラシを作成・配布した。写真は内間満自治会長。
 沖縄市城前町では、自治会を中心に地域の高齢者等の見守り体制の再構築および強化に向けた活動を展開している。
 その足がかりとして行ったのが、「一人暮らし高齢者マップ」の作成である。
 まず、地区のエリアを11ある班ごとに分割。次に、ゼンリンが発行する住宅地図を用いて、各班のエリア内にある一人暮らし高齢者宅や見守りが必要な障害者宅をマーカーでしるしをつけ、その人数や居住地を把握するというのがその試みである。
 特筆すべきはその実態把握の過程にある。現在、個人情報保護の観点から市役所などの行政機関から地域の高齢者の氏名・住所などを入手することはできない。そこで、城前自治会では、住宅1件1件を巡回し、住民の実態把握に当たった。
 巡回に際しては自治会内に組織される「福祉連絡協議会」を活用した。11の班ごとに任命されている福祉委員や自治会役員を中心に、担当エリア内をくまなく訪問し、見守りが必要な住民に対しては健康状況や家族構成などの聞き取りを行った。
 こうして完成した地区全体の「高齢者マップ」をもとに、一人暮らし高齢者等への見守りや安否確認を行い、月1回開催される福祉連絡協議会において各委員や自治会役員が情報交換を行っている。
 また、自治会では自治会長の携帯電話や事務所の電話番号が記載された緊急連絡用のチラシを作成した。このチラシを各家庭の電話機付近に貼るように依頼し、困ったときはすぐに連絡するよう訴えて回った。


相次いだ「孤独死」報道 細やかな見守りの必要性を痛感
 
 平成17年10月から11月にかけて、城前町を中心に3件の「孤独死」が発生した。1件は地域との関係をほとんど持たない方が死後8ヶ月近く経過して発見されたケース。残りの2件は地域とのつながりがあるにもかかわらず2~5日後に遺体が発見されたケースである。マスコミはこれら3件を「孤独死」と報道し、県内外に衝撃を与えた。同地区の内間自治会長はこの時、「孤独死」という言葉の定義に疑問を持つと同時に、「地域での細やかな見守り」の必要性を痛感したという。
 現在、「孤独死」について明確な定義はなく、「自宅などで死亡し、一人暮らしなどの理由から発見が遅れた場合」を概して「孤独死」と呼んでいる。起こった3件のうち、2件は家族や地域が安否を気にかけていた事例であり、発見が遅れたという事実はあるものの、本人が当時「孤独」のまま死亡したか否かは本人にしか分からない。しかし、自分たちが暮らす地域で起きた事件報道に、自治会をはじめ地域住民は大きな危機感を募らせた。
 そこで、自治会では「より具体的な実践が必要だ」と感じ、「一人暮らし高齢者マップづくり」などを提案。住民の協力を受けて活動がスタートした。
 地道に進められた活動であったが、一人暮らしの身体障害をもつ住民を訪問時に、体調の急変を察知して病院へ連絡し、大事に至らずに済んだ事例もあり、成果を挙げてきている。また、自治会には健康や生活に関する相談の連絡が届けられるようになり、その声に丁寧に対応することによって、住民との絆や信頼感が高まっている。
   

地域に生まれた二重三重の見守り体制
  
 この活動によって、地域には二重三重の見守り・連絡体制が作り上げられている。
 まずは、近隣住民による見守り。次に担当地区の福祉連絡協議会委員による見守り。さらに、自治会や市社協、在介センターの職員らによる見守り。自分たち身近な場所に一人で暮らしている高齢者や障害者がいることを認識し、必要な情報は共有し、住民同士のコミュニケーションを大切にすることで、地域における日常的な見守りの体制へと発展させている。


信頼関係を築くコミュニケーションが大切

▲月例の連絡会では在介センター職員、社協職員、福祉委員、自治会長らで意見を交わす。
▲月例の連絡会では在介センター職員、社協職員、福祉委員、自治会長らで意見を交わす。
 自治会に加入していない転居者が多くなる中で、地域内の状況を把握するためには住民同士のコミュニケーションが大切となる。
 見守りの必要性と活動の趣旨を丁寧に説明して、住民との信頼関係を築かなければ、見守り活動は成功しない。福祉委員を務める屋嘉比シゲさんは見守りの際の留意点について「住民と接する時には言葉遣いに気をつけて、こちらから心を開いて接するようにしています。」と話した。


「個人情報保護」と「情報共有」の両立が課題
 
 友愛訪問活動等においては、高齢者や障害者の住所や氏名などを把握する必要があるが、個人情報保護により行政などからこうした情報の提供を受けることができない。
 城前自治会では独自の調査活動によって情報を収集し、そこで得た情報は、役員や福祉連絡協議会の委員が必要最低限の情報だけを共有することとしている。「個人情報保護」と「情報の共有」の両立は今後、地域福祉活動全般における共通の課題と言えるだろう。


『大きなお節介』が住民に受け入れてもらえる秘訣
 
 住民との対話を大切に日ごろから地域を巡回している内間会長は、「ここまでやるかという『大きなお節介』こそが、住民に受け入れてもらえる秘訣。」と話す。住民からの訴えを待つのではなく、「何か困ったことはありませんか?」と聞き出すことで、住民のニーズを把握とその対応に結び付けている。こうした一連の過程が住民に「地域の一員」としての自覚と安心感を与えている。
 さらに、内間会長は「住民の皆さんはもちろんですが、社協や在宅介護支援センター、市役所などの関係機関とも連携を密にして、地域の課題に対応していきたい」と話す。この公民館では今年から子育てサロンも開設された。住民が安心して暮らせるよう、足元からの地域づくりが進められている。


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