廃校舎を再利用して住民福祉の向上に役立てる
社会福祉複合施設 楚洲あさひの丘(国頭村楚洲)

 
 国頭村楚洲区は、同村東部地区に位置し、豊かな自然に囲まれた地域である。かねてより畜産業が盛んであったが、近年では人口が減少し、同区にあった楚洲小中学校も平成16年3月に廃校となった。
 村では同小中学校の跡地を再利用して、新しい形態の複合福祉施設「楚洲あさひの丘」を建設した。社会福祉法人容山会が指定管理を受けて運営する同施設は地域交流の拠点として期待されている。
 ここでは、「楚洲あさひの丘」の実践から、へき地における社会資源の有効活用の好事例を紹介する。



旧校舎を全面改築し、「楚洲あさひの丘」オープン

▲旧楚洲小中学校の校舎をリフォームして立てられた「楚洲あさひの丘」
▲旧楚洲小中学校の校舎をリフォームして立てられた「楚洲あさひの丘」
 本島北部の国頭村楚洲区はかつて林業や畜産業でにぎわった地区である。しかし、近年では過疎化が進み、明治33年に開校した楚洲小中学校は平成16年3月に廃校となった。区民にとっては断腸の思いの廃校であったが、学校跡地を利用した福祉施設建設に向け、村長へ要請を行った。
 こうした区民の声を受けて、村では、跡地利用について検討を重ね、庁議や議会との折衝・論議を経て、複合的な福祉施設の建設が決定した。
 そして、旧校舎の全面改築や増築を行い、平成18年6月に社会福祉複合施設「楚洲あさひの丘」がオープンした。多機能を併せ持つ複合福祉施設は県内でも珍しく、旧校舎の再利用した事例は県内初のことであった。建設にかかる総事業費は約4億1000万円で、そのうち、厚生労働省と総務省から約1億1200万円の国庫補助を受けた。
 施設の特性を生かし、一体的な施設の管理・運営が行えるようにと、同村内の社会福祉法人容山会(金城久雄理事長)が指定管理を受けた。


制度を複合的に組み合わせた特徴ある施設運営
 
 
▲生活支援ハウスを利用する高齢者と一緒に「いただきます」をする園児たち。
▲生活支援ハウスを利用する高齢者と一緒に「いただきます」をする園児たち。
「楚洲あさひの丘」(新城弘幸施設長)は福祉機能と宿泊機能を併せ持っている点が特徴である。
-生活支援ハウス-
 1階部分にある生活支援ハウスは2名部屋が7室あり、高齢者が入居している。国頭村東部地区には特別養護老人ホームなどの入所施設がないため、高齢者の介護不安の軽減に役立っている。ちなみに現在の入居者は要介護度2程度であり、併設されるデイサービスセンターでの通所介護や訪問介護を利用することができる。生活支援ハウスに入居する金城定治さん・シズさん夫妻は、施設の居心地について「とても上等です。」と笑顔で話した。利用料は所得に応じて算定され、介護保険の利用料とあわせて1名あたり月4~5万円の負担が必要となるが、今後も利用ニーズは増えていくものと思われる。


-保育所-
 1階には保育所も併設されている。これはもともと楚洲地区にあった「へき地保育所」を移転したもので、現在、1~5歳までの園児19名が通っている(定員は30名)。離島や過疎地域は採算性の問題から民間参入が難しく、村立の保育所へ寄せられるニーズが高い。村では「へき地保育所」を「楚洲あさひの丘」に併設することで機能の充実を図っている。

-デイサービスセンター-
 1階の広間はデイサービスセンターとして利用されている。生活支援ハウスに入居する高齢者はもちろん、地域の高齢者も利用している。介護保険の基準を満たした事業所として、定員20名に対し、送迎や入浴、食事や機能訓練などのサービスを提供している。

-宿泊施設-
▲旧音楽室をいかして整備した研修室。
▲旧音楽室をいかして整備した研修室。
 2階部分は最大62名が利用可能な宿泊施設となっている。部屋数は10室で、ツインの洋室や和室の大部屋などが用意されている。また、旧校舎の音楽室や家庭科教室を改築した研修室や会議室が完備しているほか、既存の運動場や体育館、増築した大浴場やトレーニングルーム、野外バーベキュー場など施設機能は充実している。これらを活用し、ヤンバル地区の豊かな自然を求めて訪れる観光客や、環境教育やスポーツ合宿などの団体利用を見込んでいる。


複合施設のメリットを生かし、地域交流・世代間交流の場に

-効率的な施設整備・施設運営-
 人口規模の少ない地域において各々の福祉施設を個別に整備するのは建設費や維持費など課題も多い。しかし「楚洲あさひの丘」では複数の施設を集約することでコスト面や人員配置を効率よく運用している。また、旧校舎を再利用することで、設備の整備費用の軽減にもつながっている。
-地域交流・世代間交流-
 複合施設のメリットはこれだけでない、地域交流・世代間交流の拠点としても機能をしている。平成18年8月現在、施設を運営する容山会では地域住民に「楚洲あさひの丘」を知ってもらおうと、国頭村社協と連携し地域ミニデイサービスの現地開催や見学会を行っている。
 また、施設の利用者や宿泊客向けに各種体験学習のプログラムを地域住民と協働で企画したり、住民との交流の場を設けるなど魅力ある施設づくりに積極的に取り組んでいる。
 さらに、生活支援ハウスの入居者をはじめとする地域の高齢者と保育所の園児たちは同じ施設を利用することで自然と日常的な世代間交流が行われている。同じ食堂での昼食のほか、年間行事への参加、敷地内にある菜園での園芸指導などあらゆる機会で交流の場が設けられている。これが、高齢者の生活のハリや園児たちの情操教育につながっている。
▲高齢者を対象とした健康講話の様子。利用者以外の地域住民も多く訪れる。
▲高齢者を対象とした健康講話の様子。利用者以外の地域住民も多く訪れる。



安心して利用できる施設を目指して
 
 「楚洲あさひの丘」の設置について村福祉課の金城茂課長は「村内の格差是正のためにも村の東海岸地区の拠点整備は急務だった」と説明する。村では平成13年頃から住民へのヘルパー養成を積極的に進め、ソフト面の充実を図ってきた。そして施設のオープンによりハード面が整備されたのに加え、地元住民の雇用にもつながっている。金城課長は「これからも、国頭村という地域の実情に即した福祉について、施設や社協などと連携して良くしていきたい。」と語った。
 新城施設長は「全国的にも珍しい施設なので、まだまだ手探りの状態です。職員一丸となって安心して利用できる施設のあり方を探していきたい。」と抱負を述べた。




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