特集
スタートから一年 支援費制度の今
平成十五年四月の障害者支援費制度スタートから一年が経過した。
本制度は障害者の自己決定を尊重し、自らがサービスを選択し利用するという新しい仕組みの構築を趣旨としている。制度導入により何がどう変わったか。明らかになった課題・問題は?現在の状況を追ってみた。
利用の促進と地域格差
制度創設以降、障害者を対象に福祉サービスを提供する事業者は在宅福祉分野を中心に急増した。平成十六年六月一日現在、県内で身障者のホームヘルプサービス提供者(事業所)は百三十二ヶ所。これは制度開始以前と比べて約二・四倍となっている。これまで在宅での生活が難しかった障害者でもホームヘルプの活用などにより自立生活を営む道が開けたことは大きな成果である。今後は、既存の施設の活用による在宅サービスの提供や、より身近な地域でのサービス利用などの広がりが期待される。
一方、事業所の多くは都市部に偏在しており、そのことによる町村部との地域格差が懸念されている。事業所の採算性を考えると利用人口の多い地域への立地が優位にならざるを得ない。しかし、都市部周辺町村においてもサービス実施エリアとしてカバーされており、また、「基準該当事業所」と呼ばれる市町村独自で事業所を登録できる特例の制度もあり、「一概に不足しているとは言えない。」と県の担当者は話す。
支援費でのサービス利用に際しては本人からの申請を受けた市町村が調査を実施した上で支給量を決定する。支給量には上限は設けていないものの、決定は市町村の裁量に委ねられるため、利用したいサービスが全て認められるとは限らない。また、障害の程度だけでなく地域の財政状況や用意できるサービスの種類や量によって市町村間の格差は現実として存在している。
財源不足
支援費の費用は利用者自己負担分を除いた額が公費でまかなわれることになる。その公費(国)負担分の財源不足が一年目から露呈した。これは国の当初の試算をはるかに超えて利用者が増加したためで、これから新たな利用者が増え続けることを考えれば、財源面の問題は深刻だ。
現在、制度施行から五年目を迎える介護保険制度の見直しと併せて、国では支援費制度と介護保険制度との統合へむけた検討が進められているが、介護保険に単純統合されると、障害者にとっては利用者負担の増大は必至となり、サービス利用の低下が懸念される。
また、地方財政が窮迫する中、介護保険も同様に財源不足を抱えており、被保険者の範囲や保険料設定などクリアすべき課題は山積している。
利用者の声
沖縄脊髄損傷者連合会会長で、自らも支援費サービスを利用者である上里一之さん(写真)に話をうかがった。
上里さんは「制度開始によってホームヘルプサービスやガイドヘルプサービスが充実した。」として評価する一方、「市町村の担当者に自分が必要とするサービスの種類や量について説明し、納得させるのが大変。地域格差を埋めるために統一的な判定基準の設定も考えられるが、十人十色の障害者が自らの状況に応じてケアを求めることも重要だ。」と指摘した。

また、先の介護保険との統合についても、「高齢者介護はベッドを中心とした室内でのケアが主であるのに対し、障害者は仕事や余暇、家族生活など活動領域が広い。求めるニーズが違う。また、所得の低い障害者に応益負担はそぐわない。」と慎重な検討を求めている。
那覇市おもろまち。身障者デイサービスが併設されるビル内にある共同作業所「てぃーだ」。そこに通うメンバーの方々にも話をうかがった。「支援費が始まって、施設から在宅に移れるようになった」との声や「介護タクシーがもっと利用しやすくなってほしい」との要望が聞かれた。また、ヘルパー利用時間については支給決定に満足している者、そうでない者に意見が分かれた。

「てぃーだ」のメンバー
「同じ一級の障害者でも、生活環境や障害の状態で必要なサービスの質や量は違ってくる。」と、メンバーの一人、迎里崇雅さんは指摘する。「支援費制度が始まって家族介護が軽減された部分は大きい。しかし、当事者が自分の状態に合ったサービスを自己選択・自己決定できる状況を作らないと本当の支援は進まない」と語った。
ケアマネジメント
介護保険制度では介護支援専門員と呼ばれる職員が介護計画(ケアプラン)を作成し、利用者に必要なサービスを提案してくれる。しかし支援費制度では同様の職種は設置されていない。
そこで、県障害保健福祉課では障害者福祉サービスの提案や調整を担う人材(「ケアマネジメント従事者」)の養成を実施。市町村役場や各種相談機関の担当者を中心に研修が進められている。平成十五年度も百九十四人が養成研修を修了した。利用者のニーズを的確に把握し、障害や環境の状況にあったサービスをトータル的にマネジメントすることが利用者主体の本制度を円滑に推進する鍵を握っている。とくに、在宅での自立生活の実現には障害者生活支援センターや社会福祉協議会をはじめとする地域のネットワークとの連携も必要であり、専門性を持った人材の更なる養成が求められる。
最後に
支援費制度の開始により障害者福祉の分野でも「施設から地域へ」という流れがより明確となった。地域生活を支える日常的なサポートはもちろん、障害者の就労支援、生きがい、余暇活動など求められるサポートは大きい。
施行から一年、見えてきた課題も含め、障害者が自分らしい生活を実現できる社会基盤の整備について私たち県民全体で議論を深めていかなければならない。
鍵言葉(キーワード)
サービス提供事業者数の増加
障害者支援費制度の開始により、特に在宅福祉の分野でサービス提供事業者が増加した。
平成16年6月1日現在の状況は、下表のとおり。
事業者の増加により、障害者が自分でサービスを選択する、事業者間の競争(=サービスの質の向上)の効果が期待できる。
事業種別 |
制度施行前 |
制度施行後 |
増加率 |
身体障害者居宅介護(ホームヘルプ) |
53 |
132 |
2.49 |
身体障害者デイサービス |
10 |
15 |
1.50 |
身障者短期入所事業所 |
12 |
16 |
1.33 |
(資料提供:県障害保健福祉課)
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福祉情報おきなわVol.96(2004.7.1) |
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