特集
沖縄の五歳児保育問題
今年三月、平成一六年度より学童クラブの国庫補助金の対象から、幼稚園児を除外するとの方針が打ち出された。これは、事実上補助金の大幅カットを意味する。これを受け、沖縄県学童保育連絡協議会が中心となり、補助金継続を求める署名活動が展開された。この問題は、平成一六年度以降も「特例措置」として当面の予算確保がされることで一応の終息を見たが、根本的な問題解決には至らず、本県が抱える五歳児保育の問題を浮き彫りにした。
沖縄の特殊事情
沖縄では復帰以前の米国統治下において、日本本土とは別の保育政策が採られてきた。その影響が五歳児の公立幼稚園の就園率の高さに現れている。その数は八四%にのぼり全国最高である。しかし、幼稚園で午後の時間帯園児を預かる体制は不十分で、共働き家庭の多い沖縄では、学童クラブで過ごす幼稚園児の数が多くなっている。
一方で、認可保育所での五歳児保育の定員枠は極端に少ない。こうした経緯から、沖縄県では学童クラブが各地で立ち上がり、児童・園児を預かる受け皿として機能してきた。
学童の現場にて
本来、「学童クラブ」(以下、「学童」と記載)とは共働きや母子・父子家庭の子どもたちの放課後、休校日の児童の生活を守るためのクラブである。対象は小学一年生から三年生まで「放課後健全育成事業」という名称で、児童福祉法等に基づき実施されている。沖縄県内では一九七八(昭和五三)年に「上間学童クラブ」が最初の学童としてスタートした。
学童の運営は父母が負担する保育料のほかに、国や自治体が拠出する補助金によって支えられている。その補助金は、本来、学童の対象が小学校低学年と定められているため、小学生からの児童数に限定して算定される。しかし、沖縄県では前述した特殊事情を考慮して「暫定的特例措置」として幼稚園児も児童数にカウントして補助金が拠出されている。
平成一六年度予算よりその特例を見直し、国庫補助金を削減するとの方針が厚生労働省からだされたのが、今年三月。学童の現場からは「学童の切捨て」との批判の声が多くあがった。
こうした声を受け、沖縄県学童保育連絡協議会は「県内学童クラブの幼稚園児受け入れに関する緊急署名運動」を展開。県に対して独自の補助を求めた。
この運動に参加した中心的な学童の一つである「城北学童クラブ」の玉那覇八重子氏は、「学童で幼稚園児分の補助金がカットされると、ほとんどの学童は運営できないであろう」と話す。「今回の署名活動は単に補助金削減の撤回を求めるものだけでなく、行政側にきちんと五歳児保育の問題に向かい合ってほしいという思いも込められている」と語った。
五歳児は保育所か幼稚園か
学童の問題の背景には、沖縄の保育所では五歳児保育が進んでいないという現実がある。その原因としては、公立幼稚園が広く普及した沖縄県の保育施策において、そもそも五歳児を保育所でみるという考えがなかったともいわれている。
また、保育所による五歳児保育のニーズがあるにもかかわらず、公立幼稚園への就園が一般化している中で「公立幼稚園に行かない」という選択がとりづらいこと、「一年間我慢すれば小学校にあがれる…」という親の心理も垣間見え、問題の根深さがうかがわれる。
県教育庁は平成一七年度までにすべての公立幼稚園で午後の預かり保育を実施するという方針をだしているが、現在実施しているのは全体の二五%ほどでしかない。公立や認可保育所への入所待ち児童(いわゆる待機児童)対策と合わせて、保育行政の早急な対応が求められている。
今回、取材を行った母親や学校現場からは、「子育ての選択肢を増やしてほしい」という意見が多く聞かれた。「五歳になったら幼稚園にもいけるし、保育所でも預けられる。子どもの成長にあった保育を親自身が選べたら。」これがほとんどの親の共通の願いである。
沖縄県社協および県内各市町村社協では「子育ての問題=地域の問題」として捉え、安心して子育てができる環境づくりに取り組んでいる。家庭が共働きかどうかに関係なく、地域の子育て支援の輪は必要である。県民一人ひとりがこの輪に加わり、沖縄の保育問題について一緒に考えていくことが求められている。
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学童保育の幼稚園児数と補助金算定
沖縄県内では、現在143ヶ所の学童で補助金が交付され、そこに通う児童は6,260名。そのうち、幼稚園児を受け入れている学童は87ヶ所(※)以上、1,486名以上(※)の幼稚園児が在籍している。
幼稚園児を補助金の対象外とした場合、小学生児童数だけでは大規模加算の人数(36~70名は96万4千円、71名以上は192万8千円)が確保できず、補助金が減額になる学童が生じてくる。96万4千円はパート指導員1年分の人件費に相当し、安全性の確保、保護者負担の増大が懸念される。
※数字は2004年3月現在で、市町村主管課より確認が取れた分のみ。(資料提供:沖縄県学童保育連絡協議会)
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福祉情報おきなわVol.95(2004.5.1) |
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