特集 矯正施設出所者の福祉サービス利用を支える

 刑期を終え、刑務所等の矯正施設を出所した高齢者や障害者が社会に復帰し、自立した日常生活を行うためには、居場所の確保や福祉サービスにつなげるための適切かつ継続的な支援が必要となる。

 今年度より沖縄県社会福祉協議会が受託実施する「沖縄県地域生活定着支援センター」の事業を中心に、矯正施設出所者への支援の必要性について紹介する。


出所後の高齢者・障害者をサポート
 沖縄県総合福祉センター東棟2階に開設された「沖縄県地域生活定着支援センター」(以下、センター)では、刑務所等の矯正施設を出所した高齢者や障害者で、自立が困難な方が福祉サービスを受けられるよう支援を行う。
▲ このたび開設された沖縄県地域生活定着支援
   センター



 出所後も引き取り手や居場所がなく、経済的要因や孤独などを背景に、無銭飲食や万引き等の再犯を繰り返す孤立しがちな元受刑者は少なくない。出所後の生活を安定させ、再犯防止につなげるのがセンターの役割の一つである。

 センターは県の委託を受け、沖縄県社協が運営するもので、社会福祉士を含む常勤スタッフ4人が配置されている。事業の実施にあたっては、沖縄刑務所や那覇保護観察所などの関係機関と協働しながら、市町村や福祉事務所との連携に努め、対象者に必要な支援の検討・実施を行っている。

 具体的には、障害者手帳、療育手帳の取得や生活保護の需給にかかる申請手続きのサポートや、福祉施設の入所等の斡旋を行う。

 沖縄県社協では平成11年度から、認知症高齢者や知的障害・精神障害等により判断能力に不安のある者を対象とした「日常生活自立支援事業(地域福祉権利擁護事業)」において、福祉サービスの利用援助を行っており、センターの事業へのノウハウの活用や連携による支援力強化が期待される。

 また、沖縄県社協に設置される各種別協議会(県内の福祉施設が種別ごとに構成する組織)との連携により、県内の福祉施設等への受け入れについて、アンケート調査による協力依頼も予定している。



センターが行う業務
 センターは次に掲げる業務を矯正施設(刑務所、少年刑務所、少年院)、那覇保護観察所、他県の地域生活定着支援センター、福祉関係機関、地方公共団体その他の関係機関等と連携して行う。(業務イメージ参照)


①コーディネート業務
 那覇保護観察所からの依頼にもとづき、矯正施設の入所者(65歳以上の高齢者または障害を抱え自立が困難な者)を対象として、福祉サービス等に係るニーズの内容の確認を行い、受け入れ先施設等の斡旋または福祉サービス等に係る申請支援等を次の手順で行う。

ア 面接等の実施
最初に、職員が矯正施設に出向かうなどして、本人の意思、心身の状況、福祉的なニーズ、本人が福祉サービスを利用する上での問題点等を把握します。

イ 福祉サービス等調整計画の作成
前記で収集した情報にもとづき、本人が矯正施設から出所した後、円滑に福祉サービス等を利用できるようにするための調整に関する計画を作成する。

ウ 受け入れ先施設等の確保、福祉サービス利用に関する調整
前記イの計画に基づき、本人が矯正施設から出所した後の受け入れ先となる社会福祉施設等を確保するための調整を行うとともに、本人に必要と認められる福祉サービスの申請支援等を行う。
 また、他県の地域生活定着支援センターから県内に帰住予定の出所者がいる旨の連絡が入った場合は、福祉サービスの申請の事前準備を支援するとともに、福祉施設等の入所等の斡旋を行う。

 

②フォローアップ業務
 コーディネート業務の調整により矯正施設出所者を受け入れた社会福祉施設等に対して、本人の処遇、本人の福祉サービスの利用等について、助言を行う。


③相談支援業務
 矯正施設出所者の福祉サービスの利用等に関して、本人またはその家族、福祉事務所、地方公共団体、更生保護施設その他の関係者からの相談に応じて、助言その他必要な支援を行う。

 相談支援の業務には矯正施設入所中にコーディネート業務の支援対象者であった人も含む。


福祉の支援を必要とする出所者たち ~沖縄刑務所の現状から~

高齢者の刑法犯が増加
 「犯罪者白書2009」によると、近年の一般刑法犯における年齢層別の検挙人員は、65歳未満が減少傾向にあるのに対し、65歳以上の高齢者の人数は、上昇傾向が続いている。
 また、人口比の伸びで見てみると、平成元年と比較して20~29歳が約1.3倍、30~39歳が約1.3倍、50~64歳が約2.0倍の伸びにとどまっているのに対して、65歳以上の高齢者は3.7倍と急増している。このように、最近の高齢者犯罪の増加の勢いは高齢人口の増加をはるかに上回っている。


沖縄刑務所の現状
 南城市知念にある沖縄刑務所は、全国で唯一、初犯と累犯受刑者を一緒に収容している。定員は489人で、主に県内で刑が確定した刑期10年未満の男性が入所している。

 その約60%の受刑者は、窃盗等の財産犯や飲酒運転等の交通犯である。

 沖縄刑務所においても、受刑者の高齢化が進行しており、今年8月末日現在、受刑者約400人のうち、65歳以上の者が約9%、60歳以上は15%を占めており、最高年齢は80歳となっている。

 また、心身に疾患のある高齢受刑者は、全体の約35%にも上る。

 沖縄刑務所を出所しても、帰る場所がない等の理由で福祉の支援を必要とする高齢者や障害者は約20名おり、その多くは住民票がなかったり、衣類や生活用品、印鑑・通帳、所持金をほとんど持たない等の状況で、出所後の福祉サービス利用につなげる以前の問題も山積みとなっている。

 このような中、沖縄刑務所では、受刑者に対して、出所後に福祉サービスが受けられるよう支援に取り組んでいる。

 一方で、刑務所による支援には限界がある。例えば、刑期が満了すれば、刑務所を出所させなければならず、出所日には釈放となるため、福祉的支援を必要とする場合であっても、一般の社会人となった元受刑者には、刑務所が関わることができない。

 矯正施設で行える支援は、自立生活に向けた大まかな道筋をたて、受け入れ先への橋渡しを行うことで、出所後の継続的な支援についてはおのずと限界が生じてしまう。

 刑期を終えて社会復帰を迎える者にとって大切なのは、出所後の生活であり、高齢や障害からくるハンディを補うための適切な支援が必要である。介護や就労支援といった福祉サービスを利用しながら、地域になじんで生活していくための継続的な関わりについて、センターの担う役割は大きいものと思われる。


沖縄県地域生活定着支援センター
 那覇市首里石嶺町4-373-1
 県総合福祉センター東棟2階
 TEL 098-884-2800
 FAX 098-884-3800





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福祉情報おきなわVol.134(2010.11.1)
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