日常生活自立支援事業(地域福祉権利擁護事業)では、判断能力が十分でない方々の日常的な金銭管理や貴重品のあずかりなどを行っています。しかし、次第に判断能力が低下していく方に対して、権利をより適切に擁護するため、成年後見制度への利用移行が必要ですが、後見人の担い手不足や手続き支援などが課題となっています。
そんな中、社協が法人後見人となって支援をしていく取り組みが全国的に行われています。県内では七か所の基幹的社協が日常生活自立支援事業を実施していますが、今後、県内の社協において法人後見に取り組むうえでの利点や課題を整理するため平成二十年度に調査検討委員会を設け、豊見城市社協をモデルとして調査研究を実施しました。
成年後見制度とは
判断能力が低下した方々は、自身での金銭・財産管理がうまくできないことがあります。そのため、時として金銭トラブルや財産を奪われるなどの犯罪にあうこともあるでしょう。または、判断能力の低下は、契約などの法律行為ができなくなることでもあります。
そういった判断能力が低下した方々の法律行為などを援助する制度として成年後見制度が平成十二年四月より創設されています。
法人後見とは
成年後見人の種類には利用者本人の能力に応じて、後見、保佐、補助の三つがありますが、以前は後見人としてなることができるのは、配偶者や親族などに限られていました。しかし、現在の制度では、弁護士などの第三者や法人後見人が可能になりました。その中でも法人後見は、組織として後見人になることができるもので、法人の事業内容や、利用者との利害関係などを考慮し、家庭裁判所がみとめた法人が行うことができます。
成年後見の社会化
介護や日常生活の支援が必要になった方が、生活の主体者として自己決定することができるように、福祉サービス利用の仕組みも契約に基づくものに変わってきています。しかし、認知症や障がいなどのために判断能力に不安がある方が適切にサービスを選択するには困難が伴います。そこには、契約をサポートする仕組みが必要となります。
介護保険制度が、介護を家族だけの重荷から社会全体で支えていく仕組みにしたように、成年後見制度は、それまでは配偶者や親族が後見人になるという規定を改正することによって、適切な第三者が後見人になることができる規定となり、いわゆる「成年後見の社会化」が図られ、サービス選択やその契約のサポートについても社会が支えていく仕組みとして意識されるようになりました。
社協が法人後見に取り組む意義
成年後見の社会化において、社協が法人後見に取り組む意義を考えたとき、以下のように考えられます。①公共的、中立的な組織(法人)で信頼性がある。②福祉的なニーズをもつ利用者に対して、他に対応できる後見資源が見あたらないときに、まず率先して対応するという先行補完(先駆)性が発揮できる。③行政、多様な相談機関、専門家などとのネットワークを作りやすく、困難な支援においても連携協働性を発揮できる。④地域で総合相談を行い、ニーズ発見機能を持っている。⑤後見支援にあたっては、地域社会においても必要な支援や見守り体制をつくることができる。
このような五点があげられますが、地域にて権利擁護をすすめるには、他にも第三者後見人である市民後見人の発掘・養成や、家族後見人へのサポートとしての役割も考えていく必要があるでしょう。
法人後見のメリットとデメリット
判断能力が低下した認知症高齢者や障がい者らのニーズが多様化したことで、福祉関係の事業を行う法人が、組織的に利用者の財産管理や身上監護を行うことが必要かつ適切な場合や、本人に身寄りがなく、成年後見人の適切な候補者を見つけるのが難しい場合などの受け皿として、法人後見が必要であるとされています。
そこで個人での後見人と、法人後見を比べた場合のメリット・デメリットは次のように考えられます。
メリット
①継続性。利用者がまだ若年であるなど、長期継続可能性のある事案に対応しやすいこと(知的障がいのケースでは特に重要)
②広域性。利用者の資産が各地に点在している場合のように、事務の対象地が広範囲に及ぶ事案に対応しやすいこと
③連携性。多様な専門性の発揮(財産管理と身上監護の専門家との連携の体制づくり)
④負担の軽減。後見事務担当者の交代が可能で、利用者、後見事務担当者の双方にとっての心理的効果(法人に対する信頼性や事務担当者側の心理的負担感の軽減等)があること
⑤支援困難ケースへの対応。虐待が疑われたり、親族などからの干渉が激しい事案等
⑥小さな離島のような後見人を担う専門職が極端に少ない地域での事案について、法人後見による対応が期待される。
デメリット
①利用者との信頼関係。身上監護の場面では、利用者の真意を十分に汲み取り、適切な代弁を行っていくためには、利用者との信頼関係が重要な出発点である。そのため、後見担当者が頻繁に代わること信頼関係が築きにくくなるのではないかという懸念がある。
②責任体制の確立。メリットにて支援担当者の負担軽減をあげたが、組織で行うことにより逆に、責任体制が曖昧になり、かえって担当者の負担増を招く恐れがある。
③組織決定の迅速性。組織で行うことにより、後見のための判断や決定に時間がかかり迅速性に欠ける恐れがあることが指摘されます。
④利益相反。利用者に直接福祉サービスを提供している法人が、法人後見を行うことはすでに利害関係が生じていると考えられ、その場合の法人後見は適切ではない。
豊見城市社協をモデルとした調査研究
調査検討委員会では、これまでのような法人後見に関する視点や考え方を整理したのち、豊見城市社会福祉協議会をモデルとして、法人後見の取り組みに関する調査研究を実施しました。
支援ニーズに関する調査と結果
調査は民生委員や市内介護保険施設へ調査票を送付し、「福祉的な支援を必要とする事例」を提示し、それに該当する人や利用者がいるかの回答を得ました。
成年後見制度利用の必要性があると思われるケースが十二件あり、本人を見守る方がいないことや、制度利用の際に支援が必要であるといったケースが見られました。結果としては該当するケースが少なく、更にニーズ把握が必要と思われますが、成年後見制度への利用の支援の取り組みが今後も必要であると考えらます。
豊見城市社協の取り組み
豊見城市社協では地域福祉活動計画を市の地域福祉計画と連動して策定しており、法人後見への取り組みについて体制を整備することとしています。今後は、行政と連携しながら、法人後見に向けた取り組みを行っていくことになっています。しかし、社協が実施していくうえで、その体制整備と財源の確保が依然として課題となっており、行政とともに十分に継続して検討していく必要性があることを確認しました。
今後の取り組みに向けて(課題)
今回の調査研究を振り返ると、これから社協が法人後見を実施していくうえで、次のような課題が残っていることが指摘されました。
①全県的な実施体制の整備について。弁護士や司法書士との役割分担や地域性を考慮しながら社協での法人後見の全県的な体制整備が必要である。
②必要な予算措置について。行政との役割分担を地域福祉計画などで明らかにしながら、同時に必要な財源についても具体的に明示していく必要がある。
③法人後見実施社協のネットワーク化について。法人後見の取り組みについて、社協同士の連携や県外関係機関とのネットワークを構築・活用し、法人後見実施の課題等について検討していく必要がある。
④市民後見の検討について。地域住民の協力や支えあいのもとに事業を実施していくためにも成年後見に関する啓発や理解を得る取り組みが必要となる。
⑤成年後見制度の拡充について。市町村における成年後見制度利用支援事業の必須事業化など成年後見制度を充実させていくために、国や地方自治体へ働きかけを行っていく必要がある。
調査報告書について
部数に限りがありますが、報告書の配布を希望する方がいましたら
メールまたは電話にてご連絡くださいますようお願いします。
問い合わせ先
沖縄県社会福祉協議会・地域福祉部内沖縄県福祉サービス利用支援センター(川満、津波)
メール kenri@okishakyo.or.jp
福祉情報おきなわVol.126(2009.7.1) |
編集発行 沖縄県社会福祉協議会 沖縄県共同募金会 沖縄県福祉人材センター 沖縄県民生委員児童委員協議会 〒903-8603 那覇市首里石嶺町4-373-1 TEL098(887)2000 FAX098(887)2024 |