特集 地域密着型サービスの今


 今回は、制度開始から半年が経過した「地域密着型サービス」について県内の実践事例を紹介し、これからの福祉サービス事業所の地域展開について考えていきたい。

地域密着型サービスの種類と指定状況
  小規模多機能型居宅介護 認知症対応型共同生活介護 認知症対応型通所介護
医療法人 2
(1)
12
(11)
11
(3)
25
(15)
営利法人 1
(0)
6
(6)
5
(3)
12
(9)
社会福祉法人
(社協以外)
  12
(12)
7
(5)
19
(17)
地方公共団体
(市町村)
1
(1)
    1
(1)
非営利法人
(NPO)
3
(3)
    3
(3)
社会福祉法人
(社協)
1
(0)
    1
(0)
8
(5)
30
(29)
23
(11)
61
(45)
※数字は指定事業者数、カッコ内の数字は介護予防の事業者数
※サービスはほかに「夜間対応型訪問介護」、「地域密着型特定施設入居者生活介護」、「地域密着型老人福祉施設入所者生活介護」があるが、県内では未指定(18年12月現在)

介護サービスの新形態として
 4月からスタートした新しい介護保険制度では「居宅サービス」、「施設サービス」に加え、「地域密着型サービス」という新しいカテゴリーが創設された。これは、利用者が住みなれた地域での生活を継続させるため、柔軟かつ多様なサービス利用を可能にするもので、地域特性に応じたサービス提供が期待されている。 

 このため、指定権限は市町村(保険者)へ委譲され、市町村がサービス基盤の整備計画に基づいて設置が進められることとなっている。

 「地域密着型サービス」の具体的なサービスは別表に掲げる6種類で、従来の施設サービスに比べると規模は小さくなり、居宅サービスとの連続性を確保や、認知症高齢者への対応の強化が図られている点が特徴である。




小規模多機能のメリット

 地域密着型サービスの特性についてみていく前に、これまでのサービス体系を振り返ってみたい。
 介護保険制度以前を含め、従来のサービス体系ではサービス内容が細かく区分され、それぞれのサービスを独立して利用することとなる。

 要介護度が重度化していくにつれ、訪問介護だけでなく通所介護やショートステイ等複数のサービスを併用することとなるが、この場合、それぞれのサービスを受ける場所・職員が同じでないことが多い。デイサービスは数十人単位で利用することとなり、施設サービスは自宅から遠く離れた市町村になることも少なくない。こうして起こる環境の変化によって高齢者の中で混乱が生じ、これが認知症の進行の誘因にもなると指摘されていた。

 一方で、地域密着型サービスでは、要介護度や認知症が進行してもその状態に合わせてサービスが利用できるようにすることで、こうした環境の変化によるダメージを極力軽減することが期待できる。実際に、認知症の周辺症状が抑えられたという事例は枚挙にいとまがない。

 住み慣れた身近な地域の中に、民家程度の大きさの空間の中で、顔なじみの利用者とスタッフに囲まれて、複数のサービスを利用できる。これは小規模多機能の大きなメリットの一つである。


県内の指定状況 106ヶ所の事業所を指定
 県高齢者介護福祉課および県介護保険広域連合の資料によると、平成18年12月現在、県内で「地域密着型サービス」の指定を受け、サービスを実施している事業所は、介護予防の事業所も含め、11の保険者(市町村・広域連合)で計106ヶ所となっている。(1ヶ所で複数の事業を実施している場合は再度カウント)

 サービス種別で見ると「認知症対応型共同生活介護」が30ヶ所と最も多く、次いで「認知症対応型通所介護」23ヶ所、「小規模多機能型居宅介護」8ヶ所となっている。残りの3サービスについては県内では未指定の状況である。

 設置主体別で見ると、「医療法人」が最も多く、25ヶ所で全体の40%を占めている。次いで「社協以外の社会福祉法人」の19ヶ所(31%)、「営利法人」の12ヶ所(20%)、その他となっている。

 今後も計画的にサービス基盤の整備は進められ、県介護保険広域連合が管轄する28市町村においては、平成19年度までに「小規模多機能型居宅介護」「認知症通所介護」、「認知症共同生活介護」の3サービスで計36の事業所を指定する予定となっている。



地域で暮らし続けるということ
 個別の制度面ばかりに目が行きがちな介護保険法の改正であるが、第1条の目的規定には新たに「尊厳の保持」が明確化された。

 この目的の実現のためには、「地域で暮らし続ける」という視点を大事にしなくてはならない。ただ介護サービスを利用しながら、生き長らえるのではなく、介護が必要になっても、生活スタイルや人間関係を断ち切らず、「暮らし」を継続させながら介護サービスが利用できるような環境が求められている。

 こうした中で地域密着型サービスでは、在宅や在宅に近い環境での暮らしをなるだけ継続できるよう、これまでの制度の枠を超えたサービス形態になっており、県内各地で広く普及することが期待される。

 また、サービスの質の確保のために、指定・監督権限のある市町村にはしっかりとした指定基準および介護報酬の設定や、事業所に対するチェック体制の確立が必要となる。

 一方、事業所には制度の趣旨をよく理解し、同サービスの特性を生かして地域へ積極的に展開していくと共に、利用者個人の尊厳の保持を日常の現場実践で叶えていくことが求められている。



県内事業所取材レポート
小規模多機能型居宅介護事業所「花日和」
写真_住民ボランティアとパッチワークに励む利用者(豊見城市・花日和)
▲住民ボランティアとパッチワークに励む利用者(豊見城市・花日和)

 豊見城市宜保にある小規模多機能型居宅介護事業所「花日和」(大塚圭貴所長)は、平成16年に通所介護事業所としてオープンし、今年7月に小規模多機能型として再スタートした事業所である。

 (福)まつみ福祉会が設置主体となり、現在、登録している利用者9名をスタッフ12名で対応している。

 花日和では開設当初よりテレビやカラオケに頼るのではなく、利用者のやる気を促すプログラムを職員一体となって考えてきた。

 例えば、食材を業者発注に頼らず、職員と利用者が一緒になって買い物へ行く。利用者と一緒に豆腐や味噌、漬物を作り、それを食する。作った漬物を地域で販売するなど創意工夫にあふれている。花日和で過ごす時間を「特別な時間」ではなく、日常生活の延長線上に近づけることで利用者へ本当の意味での自立支援を提供している。

 所長の大塚さんに、大人数で対応するデイサービスと比較して一番の違いについて尋ねると「職員の目が行き届くので利用者のちょっとした変化にも気づくことができる点」を挙げた。

 一方で、花日和では地域との交流も積極的に行っている。事業所のスペースを住民に無償で提供し、工芸品や絵画など展示している。こうして、作品を鑑賞する方が気軽に事業所に立ち寄れる環境を作っている。また、地域の小学校から体験学習の児童を受け入れたり、不登校や引きこもりの生徒を預かって、利用者と一緒に過ごす機会を設けたりしている。この他にも工芸教室や料理講習会を開催するなど、地域と一体となった活動は数多い。こうした取り組みが、利用者を社会から遠ざけず、「暮らしの中での自立支援」につながっている。

 所長の大塚さんは「30年後をゴールとして、暮らしやすいまちづくりを今のうちから取り組んでいきたい。」と抱負を語った。



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福祉情報おきなわVol.111(2007.1.4)
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