特集 道路運送法の改正と移送サービスのこれから
平成18年5月に道路運送法の改正案が国会で可決され、10月から施行となった。これにより、社会福祉協議会やNPO等が実施する移送サービスは「福祉有償運送」として法的制度として位置づけられることとなった。本号では、今回の制度改正とこれからの福祉移送サービスについて紹介する。
ニーズの高まりとその背景
近年、市町村社協やNPOが実施する有償移送サービスが広がりを見せている。
単独で公共交通機関を利用することが困難な高齢者や障害者に対し、出発地から目的地まで移送するいわゆるドア・トゥ・ドアのサービスは、その人らしい生活を支える大切な移動手段として利用されている。今後も過疎地域における路線バスの本数削減・撤退や少子高齢化の進行により、利用ニーズはますます高まっていくものと予想される。
旧法では例外許可
一方で、こうした福祉移送サービスの多くは自家用車を用いて有償で行われている。これまでの道路交通法では、いわゆる「白タク行為」として禁じられるため、国土交通省では平成16年3月にガイドラインを示し、所定の要件クリアを条件に例外的な許可を与えることとした。これは、旧法の第80条にある「(前段省略)公共の福祉を確保するためやむを得ない場合」を適用し、国土交通大臣の許可により認めるというもの。これにより社協やNPO等が実施する福祉移送サービスの存続の道が確保できたものの、例外許可であるため、旅客の利便や輸送の安全確保のための措置は未整備のままであった。
安全・安心なサービス普及を目指して
平成18年5月に成立した改正道路運送法では、安全で安心して利用できるサービスの普及が図られるよう、第七十八条に自家用車による有償運送が位置づけられた。
さらに、国土交通省令では「自家用自動車による有償旅客運送」を行う実施主体へ、運送対価の掲示、運転者の要件、運行管理体制の徹底、保険の加入など安全確保の基準を遵守することを求めている。
運営協議会の協議を経て登録
制度では、社協やNPO等が実施する有償移送サービスは「過疎地有償運送」または「福祉有償運送」に位置づけられる。これらの事業を行うにあたっては地方公共団体に設置される「運営協議会」の承認を経て、各地の運輸局・陸運事務所を通じて国土交通大臣へ申請、許可を得なければならない。
しかし、申請の前提となる運営協議会の設置が各自治体で進んでいない現状が、大きな課題となっている。
沖縄県内の状況
国土交通省では平成16年3月から平成18年9月までを重点指導期間とし、運営協議会の設置を各自治体に呼び掛けた。また、沖縄県内でも有償運送を行うNPOを中心に、協議会設置を求める運動や要請が行われた。しかし、県内の自治体では宜野湾市が今年3月に運営協議会を設置し、市内の事業者を承認した一事例のみで、他の市町村での設置の動きは鈍い。
「福祉有償運送」を複数の市町村にまたがって運行する場合、出発地または到着地となる市町村での運営協議会の承認が必要となる。つまり、宜野湾市で承認を受けた場合、宜野湾市内からの出発か宜野湾市内に到着する運行に限られるため、他の市町村だけでの運行は認められない。そのため、国や県では、心身の障害などによって公共交通機関の利用が困難な交通制約者の権利を等しく保障するため、全ての市町村は早急に運営協議会の設置に努めるよう求めているところである。
沖縄県社会福祉協議会では今年9月に「日本移送・移動サービス地域ネット連合会」との共催で「福祉有償運送沖縄セミナー」を開催し、県内の事業者や行政職員、その他関係者を対象に全国の状況や登録申請の内容について研修を行った。
快適な移動・交通の実現に向けて
今回の道路運送法の改正は、安心して安全な移送サービスが利用できるような仕組みづくりを目指している。一方で、制度化により、運営協議会未設置などの理由から移送サービスを実施するNPO等の登録が行われないなどの状況も生まれている。こうした事態を早急に打破すべく、運営協議会の設置を進めていかなくてはならない。
また、「福祉有償運送」にとどまらず、単独で移動することが困難な方への移動や交通を保障していくことは社会的な課題となる。車いすのまま乗り降りができる低床バスの導入といった公共交通機関の改善・充実や介護タクシーの参入促進、道路や公共施設のバリアフリー化の推進など幅広い視点からの取り組みが必要であろう。
道路や交通は一番身近な「公共物」である。国民全てが等しくその利便性を享受できるよう、移送サービスが利用しやすい環境作りが求められている。
道路運送法改正による「福祉有償運送」の主なポイント |
○運送主体
NPO法人、社会福祉法人、医療法人、農協、生協、商工会などの公益法人で、非営利であること
○利用対象者
身体障害者、介護保険の要介護・要支援認定者、その他の障害者で、移動に介助が必要であり、単独で公共交通機関を利用することが困難な者
○使用車両
乗車定員11人未満の車両を用いる。安全確保のため福祉自動車を用いる。福祉自動車とは、車いすリフトなどを装備した自動車をさす。福祉自動車以外の自動車を用いる場合は、所定の要件を満たす者(運転協力者)を乗務させなければならない。
○運転手
運転手は第二種運転免許所持者もしくは所定の講習を終了した者(講習のカリキュラムについては策定中、平成19年までに、受講が必要)
○運転協力者
福祉自動車以外の自動車を用いる場合には、介護福祉士や所定の講習を受けた者を乗務させる。(ここでは「運転協力者」と呼びます。)
○運行管理
運行管理責任者を置き、体制整備、運行の安全管理を行う。
○損害賠償
対人補償8000万、対物補償200万以上の保険に加入すること。
○苦情処理体制
苦情処理体制を整備し、利用者からの苦情に対処すること。
○運営協議会
首長、バス・タクシー事業者、地方運輸局長、NPO関係者、住民、等
○運送区域
運営協議会を主宰する首長の管轄する区域を発着地とする。
○登録申請
所定の書類(申請書)をもって国土交通大臣へ申請する。登録内容に変更があった場合は速やかに届出る。国道交通大臣は登録後、登録証を交付する。登録は更新制(有効期間2~3年)となる。
○利用料金
運送にかかる燃料費やその他の費用を勘案した実費の範囲内であること(非営利)。運営協議会での承認された料金であること。
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福祉情報おきなわVol.110(2006.11.1) |
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