特集 公益通報者保護法~事業者の義務と権利擁護の視点

 平成18年4月から「公益通報者保護法」が施行された。これは、法令違反行為に対する内部通報を促し、通報者を保護する内容の制度であり、福祉の現場においても適用される。 
 企業(組織)のコンプライアンス(法令遵守)が叫ばれる中、福祉サービス事業所の経営者、労働者は、公益通報者保護法の制度を正しく理解し、福祉サービス利用者の権利擁護につなげていかなくてはならない。

法制度の趣旨
 
 公益通報者保護法は国民生活の安心・安全を損なうような法令違反行為について労働者が通報(内部告発)した場合、解雇などの不利益な取扱いから保護することをその趣旨とするものである。同法の施行にあたり、内閣府では「公益通報者保護法に関する民間事業者向けガイドライン」を定め、事業所内部での通報処理の仕組みの整備や適切な処理のための指針を示している。

 福祉サービス事業者もこのガイドラインに基づき、次のような対策を取る必要がある。


事業者に求められること
福祉サービス事業者に求められる
公益通報者保護に向けた取り組み 


1.仕組みの整備
  ①通報窓口の整備
  ②相談窓口の設置
  ③内部規程の整備
2.秘密保持の徹底、利益相反関係の排除
3.通報の受付
4.調査の実施
5.解雇・不利益取扱いの禁止
6.通報処理後のフォローアップ
7.仕組みの周知


1.仕組みの整備
 事業者はまず、責任者を選任して事業所全体で通報を処理する仕組みを整備し、運用を行っていくこととなる。具体的には、施設長などを責任者とし、通報を受付ける「通報窓口」を設け、通報の方法について労働者などに周知しなくてはならない。この通報窓口は、法律事務所など外部に委託することや複数の事業者が共同で設置することも可能である。

 また、通報処理の仕組みに関する質問への対応を行う「相談窓口」の設置も必要となる(通報窓口と一元化してもよい)。

 そして、仕組みを運用するための「内部規程」を定め、公益通報者に対する解雇や不利益取扱いの禁止を明記することが求められる。


2.秘密保持の徹底、利益相反関係の排除
 公益通報者の保護に資するため、責任者は通報の処理にあたる者に対し、知り得た情報の秘密保持を徹底させることが必要となる。

 また、利害関係を排除する観点から、受付や調査などの通報処理に従事する者は自らが関係する通報処理に関与してはならないとされている。


3.通報の受付段階の留意点
 書面やFAXなどで公益通報を受付けた場合は、通報の到達が確認できない場合が多いため、受付けた旨を速やかに通報者に通知することが望まれる。また、調査の必要性などを検討した上で、今後の対応について通報者に通知するよう努めることも必要となる。通報者の個人情報が守られるように留意する点も忘れてはならない。


4.調査の実施
 必要に応じて、通報案件に関して調査が実施される。実施に際しては通報者が特定されないよう配慮する必要がある。

 調査の進捗状況については、被通報者や調査協力者のプライバシー等に配慮した上で、通報者に対し、通知する。また、調査結果については早急にとりまとめた上で、通報者に対して通知するよう努める必要がある。


5.解雇・不利益取扱いの禁止
 公益通報をしたことを理由に通報者に対して、解雇や不利益取扱い(懲戒処分や減給など)をしてはならない。


6.通報処理後のフォローアップ
 事業者は通報処理が終わった後も、再発防止に向けた措置が十分に機能しているか確認するとともに、必要に応じて新たな是正措置を講じることが必要となる。
 また、通報者に対しての不利益取扱いがないか、嫌がらせ等がないかを確認するなどのフォローアップを行うことが必要となる。


7.仕組みの周知など
 事業者は、公益通報者保護の仕組みを職場全体で共有できるよう、現場の管理者や労働者に対し、その仕組みや組織のコンプライアンスの重要性について積極的な周知を図り、通報処理担当者への研修等を実施することが必要となる。


対象となる法律は413本
 公益通報者保護法では、通報に必要な要件として、別表を定め、そこにある413本の法律に規定される犯罪行為やその他の法令違反行為(最終的に罰則が規定されているもの)が生じている場合、または、まさに生じようとしている場合を挙げている。
 この413本の法律の中には、刑法や個人情報保護法のほかに、社会福祉法や介護保険法など社会福祉分野に関連の深いものも多く含まれている。


事業者外部への通報に際して

 公益通報者保護法では、事業者内部での保護の取組みのほかに、行政機関や事業者外部への通報についても定められている。各要件は別表のとおりとなっている。

通報先に応じた保護の要件
 以下の要件をもとに、労働者はそれぞれの通報先に通報することができます。
 1.事業者内部
  ①金品を要求したり、他人をおとしめるなど、不正の目的でないこと

 2.行政機関
 ①に加えて、②通報内容が真実であると信じる相当の理由があること

 3.事業者外部
 ①及び②に加えて、次に掲げる要件のいずれかを満たすこと
 ・事業者内部や行政機関に通報すると不利益な取扱いを受けるおそれがある場合
 ・事業者内部への通報では証拠が隠滅されるなどのおそれがある場合
 ・事業者から事業者内部または行政機関に通報しないことを正当な理由がなく要求された場合
 ・書面により事業者内部や通報しても20日以内に調査を行う旨に通知がない場合又は、正当な理由なく調査が行わない場合
 ・人の生命・身体への危害が発生する急迫した危険がある



利用者の権利擁護に向けて
 公益通報者保護法の整備と運用は、「利用者の権利擁護の機能」を併せもっている点に注目したい。これは、より良質のサービスの提供を目指す福祉サービス事業者にとって職場全体で取り組まなくてはならないことを意味する。また、法令を遵守した事業所経営という「コンプライアンス」の視点や、施設や事業所内での事件や事故を未然に防ぐ、「リスクマネジメント」の効果についても認識しなくてはならない。
 高齢者や障害者、特に認知症高齢者や知的障害のある利用者などは、自分の意思をはっきりと言葉に出して表明することが苦手の場合も多い。こうした「声なき訴え」に対し、福祉の現場で働く者同士が、福祉の倫理観に基づいて代弁していくことが、今回の公益通報者保護法によってより実効性のあるものとして保障された。
 事業所の経営者は、利用者から抗議や苦情がないからといって安心するのではなく、今後は、スタッフの意見も利用者の声として耳を傾け、適切な事業所経営に努めることが求められる。

(欄外)
 参考資料「公益通報者保護法パンフレット」(内閣府国民生活局発行)



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福祉情報おきなわVol.108(2006.7.1)
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