特集 高齢者・障害者の権利を守る

 高齢者や障害者に対する虐待や詐欺事件が社会問題化する中、自分らしく安心して暮らしていくための仕組みづくりが社会に求められている。虐待や詐欺、消費者被害などを未然に防ぐため、あるいは被害の相談が寄せられたとき、福祉関係者としてどのような機関や制度が活用できるか。今回は、高齢者や障害者の権利を守るしくみについて考えてみる。

権利侵害と権利擁護
 高齢者や障害者に対する権利侵害の事例が多く上がっている。具体的には、財産や年金の搾取による経済的権利侵害、あらゆる形態の虐待、最近では振り込め詐欺や悪徳リフォーム業者などによる詐欺被害も報告されている。また、権利侵害は他人だけでなく、家族や親族が加害者となるケースもあることも特徴である。
 私たちは、憲法によって基本的人権が尊重され、加齢や障害の有無に関わらず人生のどんなときも自分らしく生活する権利が保障されなければならない。高齢者や障害者を含む全ての人々が安心して生活できる社会を築くことが権利擁護の視点である。
 福祉関係者は、自らの福祉サービス提供現場はもちろんのこと、あらゆる生活場面で起こりうる権利侵害の防止や発見後の対応についてどのような機関や制度が活用できるかを押さえておく必要がある。


地域福祉権利擁護事業  社会福祉協議会
 社会福祉協議会では、平成12年度より地域福祉権利擁護事業を実施している。これは、判断能力に不安のある痴呆性高齢者、知的・精神の障害者などを対象とするもので、福祉サービスの利用手続き、日常的な金銭管理、権利書や契約書などの書類の預かりなどを行っている。 
 この事業の実施にあたっては、県社協内の「県福祉サービス利用支援センター」のほか、県内5ヶ所に基幹的社協が設置され、専門員とよばれる職員や生活支援員が業務にあたっている。福祉サービスの利用契約や日常的な金銭管理(年金、生活費などの管理)などは利用ニーズが非常に高く、権利擁護事業によって制度化された意義は大きい。
 利用者の多くは複合的な生活課題を抱えているケースも多く、自立生活や権利擁護の実現に向け、各社会資源とネットワークを築くことが必要となっている。
 制度開始からこれまで、のべ410名が利用している。


成年後見制度 家庭裁判所など
 この制度は、平成12年にスタートした制度で、判断能力の不十分な方の保護と支援を目的としている。段階に応じて後見、補佐、補助が選べるほか、任意後見が創設されるなど、自己決定の尊重が図られた制度となっている。審判などの手続きは各地の家庭裁判所で行われている。
 成年後見制度の必要性は年々高まりつつあるが、今後、同制度の活用を進めていくためには、制度に対する社会的な支援が必要となってくる。本人の判断能力がなく、かつ身寄り(2親等以内の親族)がないなどの理由から、必要としながらも制度が利用できない場合、市町村長が法定後見の審判申し立てを行うことができるが、沖縄県内で市町村長申し立てを実施した市町村はまだ少ない。今後は、市町村独自の支援策として同制度の利用に係る費用の助成など積極的な支援が期待される。
 なお、法律全般の総合的な支援体制を強化するため、今年4月から日本司法支援センターを中心に全国各地の県庁所在地に相談窓口が設置される予定である。これらの機関の活用も念頭に入れておきたい。


消費生活センター  県民生活センター
 近年、振り込め詐欺やリフォーム詐欺など、高齢者や障害者を狙った犯罪および消費者被害が多発し、社会問題となっている。
 消費生活センターでは商品やサービスなどの消費生活全般に関する苦情や問合せなどを受付け、専門の相談員が対応している。また、消費者被害に関する情報提供も行っており、ホームページから閲覧することができる。消費生活センターは各都道府県に設置されており、沖縄県では「沖縄県県民生活センター」がこれにあたる。また、関係機関24団体から構成される「高齢者当消費者被害対策会議」が今年1月に発足し、対策強化が図られている。
 福祉関係者は消費者被害に関する情報収集を行い、被害発生防止に努めるとともに、必要に応じて生活センターへ連絡し、相談、情報提供を行うなどの対応が求められる。

福祉オンブズマン  おきなわ福祉オンブズマン
 福祉サービスが措置制度から利用制度へと転換し、自己決定と契約によるサービス利用がスタートした。これにより利用者の自己決定を支援しながら権利擁護をすすめる「福祉オンブズマン」とよばれる活動が全国各地で展開されている。
 福祉オンブズマンの利用にあたっては、活動を実施している団体と利用者(もしくは家族会や施設など)が契約する必要がある。オンブズマンは定期的に施設へ訪問し、利用者からの相談に応じるほか、利用者自身の意思表示を促し、必要に応じて施設や事業所に対して、その要望や意見を伝え、利用者が安心して福祉サービスを利用できるように支援している。
 沖縄県では、「おきなわ福祉オンブズマン」が設置されており、現在、県内4ヶ所の福祉施設で活動している。


地域包括支援センター  市町村など
 平成18年4月から設置が始まる「地域包括支援センター」は、地域住民の福祉の増進を包括的に支援することを目的としている。センターは市町村または市町村から委託を受けた法人が設置者となり、全国で5~6千ヶ所の設置が想定されている。
 その業務内容の一つに、総合相談や権利擁護を行う機能があり、センターに設置された社会福祉士や保健師、主任ケアマネージャーといったスタッフが対応する。制度横断的な支援の展開を目的としており、身近な地域に設置されるということもあり、その期待は大きい。
 福祉関係者は今後、地域包括支援センターとの連携を通じ、同じ地域に住む高齢者や障害者の権利擁護を進めていくことが期待される。


苦情解決と第三者委員 各事業所・県運適委
 福祉サービスを提供する事業者には苦情解決の仕組みの導入が義務づけられている。具体的には、利用者からの苦情や要望に対して受付けを行う「苦情受付担当者」、責任を持って解決にあたる「苦情解決責任者」、中立・公正な立場から苦情の受付けや解決にあたる「第三者委員」を設置しなくてはならない。
 福祉関係者は自施設・事業所の苦情解決の仕組みの整備を図ることはもちろん、実効性のあるシステムにする工夫も求められる。特に、第三者委員については外部から選任されるため、利用者と接点を多く持つなど、苦情を申し出やすい関係性を築くことが重要となる。
 利用者からの苦情については各施設や事業所内で解決されることが望ましいが、沖縄県福祉サービス運営適正化委員会においても相談受付けを行っている。


権利を守っていくために 
 以上のように、私たちの暮らす社会には高齢者や障害者の権利を守るさまざまな制度や機関が存在する。
 福祉関係者は、権利擁護の実現にむけ、こうした地域の社会資源をうまくつなぎあわせるソーシャルワーク能力が求められる。
 そしてもちろん、日常の業務の中で、権利侵害を未然に防止する姿勢と実践も求められている。
 

紹介した制度、機関についての問合せ連絡先
 ◆沖縄県福祉サービス利用支援センター
  那覇市首里石嶺町4-373-1
  (098)887-2028
 ◆成年後見制度
  お近くの家庭裁判所
 ◆沖縄県県民生活センター
  那覇市西3-11-1
  (098)863-9214
 ◆おきなわ福祉オンブズマン
  那覇市楚辺2-24-24 ケイズコート202
  (098)836-8201
 ◆沖縄県福祉サービス運営適正化委員会
  那覇市首里石嶺町4-373-1
  (098)882-5704



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福祉情報おきなわVol.106(2006.3.1)
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