特集「介護予防」~その効果と実践

 「国民の共同連帯の理念の下」にスタートした介護保険制度は開始から5年がたった。予想を超えて増大する介護給付費に対応するため、制度の見直しに向け検討が進められている。
 そこで注目を集めているのが「介護予防」の考え方。生活が不活発になって心身機能が低下する「廃用症候群」よる要介護状態を防ぐのがその目的である。県内における介護予防にむけた実践をレポートする。

《制度見直しと介護予防》
 介護保険制度の見直しでは「予防重視型」への構造的な転換を目指し、軽度の要介護者に対して介護状態の防止を目的とした「新予防給付」が適用される。
 具体的メニューとしては、既存の訪問介護(ホームヘルプ)や通所介護(デイサービス)に予防効果を持たせた「予防訪問介護」や「予防通所介護」に加え、筋力向上トレーニング(筋トレ)や転倒予防訓練、口腔ケア等が挙げられる。これらは、高齢者の介護状態の発生や悪化を予防し、生活の質の向上の実現を図るねらいがある。同時に将来の介護給付費の抑制も期待されている。

《筋力アップで健康づくり》
 那覇市にある武内整形外科。ここでは14年前からトレーニング施設を設け、患者のリハビリや一般利用者向けに筋トレを行っている。筋肉を増やすことで、バランス能力や日常生活動作能力が高まり、健康で活発な生活が可能になる。武内正典院長は、「正しい筋トレによって、何歳からでも筋力向上は可能。身体面だけでなく精神面の安定にも効果がある。人生をより楽しむことができ、生活全般にハリが生まれる。」と語る。「(介護予防の)一番のねらいは、健康を基礎として、その人の人生を豊かにすること。」と強調した。

《利用者の声》
 医院の上階にあるトレーニング施設を利用する真栄城兼徳さん(74)、百合子さん(73)夫妻に話をうかがった。
 北谷町に住んでいる真栄城さん夫妻は筋トレには月10回通っている。夫の兼徳さんは「始めて一年が経ち、体力がついた実感があります。階段の上り下りが楽になり、睡眠もとりやすく、食事もおいしい。」と笑う。妻の百合子さんは「外出する機会も増え、ストレス解消になっています。」と毎回の運動を楽しみにしている様子だ。筋トレと聞くと「キツイ」をイメージしがちであるが、専用の運動機器と丁寧なスタッフの指導で、安心して運動に取り組んでいる姿が印象的だった。  
 

《転倒骨折予防教室》
 西原町では地域の高齢者を対象に「転倒骨折予防教室」を実施している。高齢者が転倒により骨折すると、完治するまでに、筋力が低下し、寝たきり状態に陥るケースが少なくない。教室では転倒の要因を理解し、その防止策を学ぶことや、足腰を鍛える簡単な運動を覚えることで転倒予防の意識づけを図っている。事業を受託する西原町社協の職員、玉那覇美加さんは、「専門家のアドバイスを聞いて、実際の生活に取り入れるなど、住民の方の反応も上々です。」と効果を語る。「転倒骨折予防教室」は本年度、県内34市町村で実施されている。


《生きがい型デイサービス》
 各自治体で実施されている「生きがい対応型デイサービス」(生きデイ)も介護予防に大きな役割を果たしている。
那覇市石嶺の集会場では週一回、市の生きがい対応型デイサービス(願寿家〈がんじゅうやー〉事業)が実施されている。取材に行った日は体操教室、ぬり絵、昼食などが行われた。住み慣れた地域で、顔見知り同士が集い、一緒に体を動かしたり、おしゃべりをしたりすることで、おのずとストレス解消や介護予防につながっている。
 那覇市社協の調査によると、デイサービス利用者一人あたりの医療費が市平均と比較して年間15万円以上も抑えられているという結果が出ている。「色々と内容を工夫してくれるので、毎回楽しみに参加しています。」と利用者の声。地域でお年寄りを支えるこの事業は、離島町村含め県内各地で実施されている。


《総合的な介護予防システム》
 このように、現在、県内では介護予防にむけた取り組みが各地で展開されている。それでは、今後はどのように介護予防が展開されるのか。
 介護保険制度の見直しでは「総合的な介護予防システム」を構築することを目指している。具体的には、①介護予防マネジメントの確立、②市町村事業の見直し、③新予防給付を創設する。「老人保健事業」や「介護予防・地域支え合い事業」が見直され、市町村が責任主体となり、予防サービスの提供・調整を行うことになる。(図参照)
  

《最後に》
 長寿県沖縄においても高齢者介護は社会全体の問題としてこれからも向き合っていかなくてはならない。介護を必要とする方のケアはもちろんのこと、介護状態に陥らないための取り組みを地域で支えていくことが求められている。そして、「自分の健康は自分で守る」意識を各々が持ち続けることも忘れてはいけない。
「介護を予防する」ことはどの世代からスタートさせても早すぎることはない。




(トップページ)

(次のページ)




福祉情報おきなわVol.100(2005.3.1)
編集発行 沖縄県社会福祉協議会 沖縄県福祉人材センター
〒903-8603 那覇市首里石嶺町4-373-1 TEL098(887)2000 FAX098(887)2024



-ふれあいネットワーク-

〒903-8603 那覇市首里石嶺町4-373-1

社会福祉法人
沖縄県社会福祉協議会

Tel 098(887)2000  Fax 098(887)2024
Copyright(C)沖縄県社会福祉協議会
CLOSE