一人暮らし高齢者を地域で見守る体制を
夜間巡回サービス事業・社会福祉法人松籟会(名護市各地区)

 
 北部地域の中核をなす名護市は、官公庁や企業などが集まる市街地と旧来の集落を残す地区を併せ持つ市である。近年では、家族形態の多様化によって、成人した子どもが本島中南部地区で生活するケースも増え、一人暮らし高齢者も増えつつある。
 名護市で高齢者福祉施設を運営する社会福祉法人松籟会では、関係機関と連携して、市内の一人暮らし高齢者の見守り体制を構築し、平成7年に夜間巡回サービスを立ち上げた。この活動は現在でも住民主体の活動として継続している。


福祉施設職員と地域福祉協力員が協力し安否確認体制を構築

▲高齢者宅を訪れたかりゆしぬ村の職員。夜間の巡回が高齢者の安心感へとつながっている。
▲高齢者宅を訪れたかりゆしぬ村の職員。夜間の巡回が高齢者の安心感へとつながっている。

 「夜間巡回サービス事業」は、主に一人暮らしの高齢者を対象に、夜間の安否確認や健康チェックを行う、地域ケアの一形態である。
 この活動は、市内の社会福祉法人松籟会が運営する「かりゆしぬ村デイサービスセンター」「特別養護老人ホームかりゆしぬ村」の職員と、各地区の地域福祉協力員らが合同して行われる。
 対象者は市内在住の一人暮らし高齢者で、市内を2つのルートに分けて巡回する。
 地域福祉協力員は、活動の趣旨に賛同した各地域の民生委員やボランティアで構成され、 活動時間帯は夕食や就寝の時間にあたる19時23時の夜間で、台風時も含め、毎日実施される。1ルートあたり10世帯ほどを巡回するため、1世帯に滞在する時間は10~15分程度。その中で、健康チェックや電気・水道・火の元の確認、生活相談などを行う。
 夜間における活動に加え、緊急時の対応も想定されることから、警察署や病院などの関係機関とも連携も密にしながら実施された。
 こうした内容の活動を平成7年10月からおよそ2年ほど展開し、その後、地域に活動が定着してきたことから、法人が実施する事業としての役割を終えたと判断。各地域での自主活動へと発展解消した。10年近くたった現在でも、地域で一人暮らし高齢者を気にかける風土が息づいており、日常生活の中でその理念・活動は存続している。


 「利用者の夜間の様子が心配」がきっかけ
  

活動のきっかけは平成6年ごろにさかのぼる。当時は介護保険制度が導入される前で、利用できる福祉サービスのメニューも限られていた頃であった。 かりゆしぬ村デイサービスセンターに一人暮らしの利用者がおり、日中のケアはセンターでできるものの、夜間や活動日以外の様子が心配だということで、職員が夜間巡回の実施を発案したことが後の活動のきっかけとなった。
 そこでまず、計画の実施にむけて施設全体で取り組むことを決めると、関係機関との連携や協力体制の構築を図りながら実施にこぎつけた。
 対象者数名からスタートした同事業は地域に住む一人暮らし高齢者の利用希望が相次ぎ、やがて20世帯近くを見守ることとなる。
 当時、こうした地域を巻き込んだ見守り活動を福祉施設が実施する例は珍しく、全国的にも注目を集めた。一つの社会福祉法人が企画・発案したこの活動は、地域を巻き込み、やがて「地域の福祉力」を高めるという効果をもたらした。活動を推進した2年間で大きな足跡を残した。


 地域社会のつながりを再構築し、自主性を喚起

▲滞在時間は10分程度。健康チェックや火の元確認などを行う。
▲滞在時間は10分程度。健康チェックや火の元確認などを行う。
 夜間巡回サービス事業が成功を収めた背景には、地域社会のつながりを再構築した点があげられる。「生活の場」となる地域社会へ福祉施設の職員が介入していくことで、住民が自らの地域を見つめ直すきっかけとなり、「自分たちの地域は自分たちの手で支えよう」という自発性の喚起につながった。
 活動を通して福祉施設職員も自らがもつ介護についてのノウハウを地域に還元することができ、やる気を引き出した。また、市内の福祉関係機関のネットワーク化によって、夜間巡回サービス以外の事業でも連携が取りやすくなり、地域福祉の底上げにもつながった。
 実施にあたってはいろいろと苦労も多かったと聞くが、丁寧な人間関係づくりを通して、地域の福祉力を引き出していった点に本事業の大きな特徴を見ることができる。


  活動者の声

 利用者の家族からは、「私たちがやりたくてもやれずにいたことを、やってくれてありがとう」と感謝の声が多く寄せられた。親元から遠く離れて暮らすなどの理由から、頻繁に通うことができない家族も少なくない。こうした家族とも連絡を取り合いながら、心配事を一つひとつ解消していったことも活動の特徴の一つである。
 ボランティアとして係っている協力員や民生委員からも「近くに暮らすお年寄りとつながりを持ちたくても、どうして進めてよいか分からなかった。この活動が良いきっかけになった。」と喜ばれた。


 計画段階における協力体制の構築が鍵
 
 このような地域ぐるみの事業を立ち上げるにあたっては、計画段階における地域の関係機関との協力体制の構築が不可欠である。夜間に住宅を巡回するということは、安全面や防犯面、救急体制の確保も大切になってくる。松籟会では事業実施の趣旨や活動内容について資料を作成し、行政や警察、病院、住民など地域の協力体制づくりを丁寧に行った。
 しっかりとした実施計画づくりが、活動を進める大きな鍵となった。


  この活動を通じて得られたもの
 
 今回、取材に応じてくださった、かりゆしぬ村在宅福祉サービス部長の国場多津子さんは、当時を振り返り、「必要とされているんだから、『まずは、やってみよう』という言葉から始めました。できることから進めていくうちに、こうした形ができあがっていったんです。」と説明した。そして、「地域を動かす前に、自分たちが動くことが大切」と活動を進める上での信条を述べた。
 現在でも、当時関わった多くの協力者から介護などの相談や連絡が舞い込んでくるという。「巡回事業を通じて得られたつながりは、現在でも私たちの財産になっています。」と国場さんは話す。こうした地域とのつながりが、名護の地で、今後も活動の基盤となって役立てられていくものと思われる。


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