特集 「私は停めません」~心のバリアフリー化を進めよう


 公共施設や大型商業施設などを中心に、車いす利用者のための車両駐車スペース(ここでは、「車いす駐車場」と表記)が設けられるようになってきた。しかしながら、本来なら一般駐車場を利用すべき人の車いす駐車場への駐車や、点字ブロック上への駐車・駐輪等を見かけることがある。
 本号では「車社会」沖縄の駐車マナーの改善から誰もが暮らしやすいユニバーサル社会の実現を考えてみたい。


車いす駐車場はなぜあるのか?
写真・点字ブロック上に駐輪されたバイク
▲点字ブロック上に
駐輪されたバイク
 もっとも基本的な部分、「なぜ、車いす駐車場が必要なのか」から見ていこう。車いす利用者は車の乗り降りをする際、車いすを車両に横付けして、ドアを全開にする必要がある。そのため一般駐車場に比べ、多くのスペースを必要とし、建物への出入りのしやすさも考慮しなくてならない。そこで、1台あたりの幅を広げた駐車スペースが建物の出入り口付近に隣接されているのである。


点字ブロックはなぜあるのか?
 
歩道や廊下に敷設された点字ブロックは、進む方向を示す線状のものと、注意を喚起する点状ブロックの2種類があり、視覚障害者の通行を手助けするものである。しかし、点字ブロック上やその周囲に駐車・駐輪したり、工作物や荷物を置いたりすると、歩行の邪魔になることはもちろん、重大な事故やケガにつながる危険性もある。
 視覚障害者の歩行には点字ブロック周辺の安全性の確保も必要である。


マナー・思いやりが大切なのに
 車いす駐車場や点字ブロックの役割と必要性を理解したところで、県内の現状について目を向けてみよう。
 ハートビル法の施行もあいまって県内でも公共施設などを中心に車いす駐車場の整備が進んできた。しかしながら、車社会の沖縄では人口が密集する都市部を中心に駐車場不足が慢性化しており、車いす駐車場への一般車両の駐車が目立つ。また、歩道や点字ブロック上へ車を横付けしたり、原付バイクや自転車の駐輪も後を立たないのが現状である。
 こうしたマナーの悪さが目立つ一方で、車いす駐車場への駐車をめぐってはトラブルも発生している。ある企業では店舗前の車いす駐車場に一般客が駐車しないようにするため、余分に警備員を増員して対応に当たっているという。しかし、駐車を注意すると「同じ客なのに差別するのか」と口論になったり、駐車できない障害者からも苦情を言われるなど、頭痛の種となっている。
 車いす駐車場や点字ブロックは国や地方自治体もしくは企業などがコストをかけて設置した貴重な資源である。にもかかわらず、一部のマナー違反によってせっかくの資源が台無しになるばかりでなく、設置普及に消極的になることも懸念され、影響は大きい。また、こうしたマナー違反も公道を除いては違法駐車として取り締まることができないため、ドライバー一人ひとりの意識向上が求められている。
 

「車いすマーク」のステッカーは「駐車許可証」ではない!!
写真・車いすのシンボルマーク
▲車いすのシンボルマーク
 車いす駐車場には、一般の駐車場と区別するため、大きな車いすマークが標示されている。このマークは、障害者専用または、障害者に配慮した設備であることを示すシンボルマークとして69年に国際リハビリテーション協会が制定して以降、国際的に使用されているものである。駐車場以外でもトイレやスロープなどで見かけることもあり、私たちの生活にもかなり浸透している。
 一方で、このシンボルマークが普及するにつれて、マークが印刷されたステッカーやマグネットシールなどが市販されるようになってきた。バリアフリーに配慮した設備であることを標示するために使用するのであれば支障はないが、ドライバーの中にはこのマークを車両に貼って、あたかも「障害者の使用する車両」であるかのように装い、車いす駐車場に駐車するという悪質なケースも見られる。
 「家族に高齢のおじいちゃんがいるから」、「聴覚障害者を乗せるから」と実際には車いすを利用しないにもかかわらずこのマークを掲示して堂々と車いす駐車場に停める人もいるという。
 シンボルマークは駐車許可証ではないことを十分認識するとともに、たとえ高齢者や障害者手帳所持者であっても車いすを使用しない場合は、一般駐車場を利用して本当に必要としている方へ譲ることを忘れてはならない。



「私は停めません」キャンペーン
写真・「私は停めません」ステッカー
▲このステッカーを車両に貼って、ドライバーへ意識向上を呼びかけている。公用車等へ貼っていただける事業所はバリアフリーネットワーク会議
(098-929-1140)までお問合せを。
 こうした中、車いす駐車場や点字ブロックへ正しい理解を呼びかける運動が展開されている。沖縄市にあるNPO法人沖縄バリアフリーネットワーク会議(小濱哲理事長)では、県内12の団体と連携し、「『私は停めません』キャンペーン実行委員会」(委員長 高嶺豊 琉球大学教授)を組織し、運動を実施している。これは、車いす駐車場や点字ブロックの必要性を県民全体へ訴え、「共生の意識」を啓発するもので、平成17年9月から県内各地で活動を行っている。
 実行委員会の親川修事務局長は、キャンペーン実施に至った経緯について「車いす駐車場や点字ブロックの現状を目の当たりにして、『停めないで』とお願いするのではなく、『私は停めません』という意識をみんなが共有できるように啓発して広めていくしかないと感じた。」と語る。
 キャンペーンでは、多くの企業や組織からの協賛や協力のもとに、ポスターやチラシを作成し、大型商業施設などでチラシ配布などを行っている。また、キャンペーンステッカーを作成・配布しており、このステッカーを車両等に貼ってもらうことで、多くのドライバーへの啓発を狙っている。運動の手ごたえについて親川事務局長は、「毎回、いろんな方々の協力を得て、活動を進めてきた。最近では若手のミュージシャンも活動に加わり、若者層への浸透に一役買っている。ただ残念なのは、チラシ配布中にでも車いす駐車場へ停めようとする人がいること。みんながルールを守るよう意識を変えるにはまだまだ、継続して訴えていかなくては。」と語った。
 また、「福祉関係者の中にも理解不足の方がいるので、特にこの運動の啓発に率先して取り組んでほしい。」と要望した。

写真・幅広い年代が運動を盛り上げている。
▲幅広い年代が参加して運動を盛り上げている


「心のバリアフリー」に向けて
 
平成18年12月、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(バリアフリー新法)が施行された。これは、これまでのハートビル法(平成6年制定)と、交通バリアフリー法(平成12年制定)の統合・拡充を行ったもので、ユニバーサルデザイン政策の柱として位置づけられるものである。この法律では、対象者や対象施設を拡充するなどハード面の強化を目指す一方、ソフト施策の充実として「心のバリアフリー」の推進を国の責務として規定している。そして国民にはバリアフリー化に関する理解と協力を求め、高齢者や障害者が円滑に移動したり施設を利用できるようにするとともに、自立した日常生活や社会生活を確保することを目指している。
 車いす駐車場や点字ブロックという公共物を本当に必要としている人が使えるように県民一人ひとりが配慮することこそが「心のバリアフリー」化に向けた第一歩となるといえよう。




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福祉情報おきなわVol.112(2007.3.1)
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