特集 介護サービス情報の公表~その趣旨と役割

 今年4月の介護保険改正施行に伴い、新たに「介護サービス情報の公表」制度がスタートした。この制度は、介護サービス事業所が提供するサービス内容を公表(公開)することにより、介護保険制度の理念実現を目指すもの。沖縄県社協では、沖縄県より一昨年度から2年間、対象サービスの調査項目及び調査員の要件等を検討するモデル事業、調査員を養成する研修事業の委託を受けてきた実績から、調査機関ならびに情報公表センターの指定に向けた準備を行っている。今回は、介護サービス情報の公表について紹介する。


制度創設の経緯と趣旨
 介護保険の理念実現に向けて

 介護保険制度が開始されて5年が経過し、要介護者の受け皿となる介護サービス事業所は全国13万ヶ所を数えるに至った。社会福祉法人、民間企業、NPO法人などさまざまな運営主体が参入している。介護サービス事業所には制度の基本理念に基づいた質の高いサービス提供が求められる。その基本理念とは「利用者本位」、「高齢者の自立支援」、「利用者による選択・自己決定」の3つである。
 しかしながら、基本理念に「利用者による選択・自己決定」が位置づけられているものの、サービスを利用する利用者やその家族にとって必要な情報を得て、それを比較する手段や方法が限られていた。そこで、介護サービス事業所に関する情報を事前に収集し、比較・検討できるしくみを整備することが必要となってきた。これが、「介護サービス情報の公表」制度である。この制度は、事業所による適切な情報の提供と、利用者による情報の活用をとおして、介護保険制度の理念である、「自立支援に向けた利用者主体のサービス選択」を保障し、介護サービス全体の質の向上を目指すものである。


制度のしくみ
 介護サービス情報の公表の流れは、下図に示したとおり。介護保険事業所はあらかじめ標準化された項目についての「情報」を自らの責任で公表することとなる。職員体制や利用料金などの基本的な事実情報のことを「基本情報」といい、介護サービスに関するマニュアル等の有無等、事業所が事前に報告した情報を「調査情報」という。
 なお、前者は、事業者が報告したことがそのまま公表され、後者は、事前に事業者が報告した情報について、第三者(調査員)が訪問調査を実施した結果が公表される。これら二つの情報は、利用者が事業所を選択する際の材料となる。
 事業所は、これらの情報について、都道府県ごとに設置される「情報公表センター」に年1回報告する。
 また、先述した「調査情報」を収集するための調査は、公表する情報が客観的に見て正確かどうかの事実確認を行うものであり、調査員による主観的な評価や指導は行われない。公表された情報により、事業所を評価するのは利用者の側に委ねられる。
 情報公表センターで集約・公表された情報は、インターネットによる公表や事業所自らが見やすい場所に掲示するなどを通じて利用者や家族は確認することができる。また、情報の公表方法は、現在国で検討されているところだが、利用者が複数の介護サービスを比較しやすい仕組みの構築が何より求められる。
 こうして、利用者は事業所についての情報を把握し、自ら必要なサービスを選択・決定することが行えるようになる。
 なお、今年度は訪問介護などの9つのサービスが先行実施され、来年度以降他のサービスについても順次導入されることになっている。(脚注参照)


事業所に求められること
 事業所にとっては、年に1回自らの責任において情報を公表することとなり、「基本情報」及び「調査情報」いずれの場合も公表内容とサービス提供現場の整合性と説明責任が求められることとなる。そしてなにより、利用者が公表情報をもとに利用する事業所を選択していくことを考えれば、おのずとサービス改善や経営努力が求められるのは言うまでもない。
 なお、事業所自らが利用者の選択に必要な情報を提供するという趣旨の下、その調査や公表にかかる費用については事業所が負担することとなる。沖縄県では1事業所あたり、「調査手数料」が45,000円、「公表手数料」が14,800円の負担となっている。


調査機関、公表機関に求められること
 沖縄県では、今年度2~3ヵ所の調査機関を指定することになっており、調査機関においては調査員の資質向上などを通じて適正な調査の実施、公表情報の公平性と正確性の確保が求められる。
 一方、情報公表センターの役割は、国の公表システムに基づき、利用者による事業所の比較・検討が容易に行えるよう、情報入手の利便性を高め、同制度を実効あるものにすることにある。今年度は、約1,000ヵ所の対象事業所があり、これらの事業所の情報を、適切に公表できるよう体制整備を図り、信頼性の確保に努めることが求められる。


介護サービスの質の向上を目指して
 この制度は、これまで利用者にとって容易でなかったサービス事業所の選択・自己決定を実際のサービス利用場面において保障するしくみである。行政主導の監督・指導ではなく、事業所の説明責任と経営努力、サービスを選択する利用者の主体性に主眼をおいた制度となっている。事業所にとっては、情報公表というプロセスを通じて、自己のサービスを振り返り改善していくきっかけになるものと思われる。他方、利用者およびその家族にとっては、サービス事業者を選択する「眼」を養うことになり、納得のいく自己決定プロセスを経験することになる。
 介護保険制度開始から5年。今回の公表制度の創設は、介護サービスの質の向上を強力に促進していくものと期待されている。

※脚注
今回、公表の対象となるサービスは、①訪問介護、②訪問入浴介護、③訪問看護、④通所介護、⑤特定施設入居者生活介護(有料老人ホーム、軽費老人ホーム含む)、⑥福祉用具貸与、⑦居宅介護支援、⑧介護老人福祉施設、⑨介護老人保健施設である。


インタビュー
「介護情報公表」への期待
 今回の制度導入にあたり、本県におけるモデル事業の実施や調査員養成に携わった福井彰雄さんに、制度開始の経緯と期待について話をうかがった。

―制度導入に至った背景について
 介護サービスを必要とする利用者や家族が介護に関する情報が不足していたのが背景にあります。平成13年ごろからグループホームの外部評価事業が開始され、サービスの質の向上に一定の成果を残した実績をうけて、平成16年からこのサービスのモデル事業がスタートしました。

―モデル事業を実施しての反響は
事業所にとっては当初はやはり、第三者や利用者に主体的に情報を提供するということに積極的とは言えませんでした。しかし、中には自らのサービス向上のきっかけとして捉えてくれている事業所もありました。

―本制度に対して期待することは
 情報の公表を義務付けにより、利用者側が多くの情報を手にすることと、事業所の意識の向上により、サービスの質の向上が図られることを期待します。



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福祉情報おきなわVol.107(2006.5.1)
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