特集 現場実習の受入れについて考える

 この時期、県内の社会福祉施設や事業所の多くでは、現場実習の受入れが実施される。現場実習とは、社会福祉関係の専門資格(もしくは受験資格)取得のカリキュラムの一つとして学生が社会福祉の職場に出向き、一定期間、その職場での援助業務を体験するものである。福祉の仕事に夢描く学生や資格取得でキャリアアップを図る福祉従事者など、多くの実習生が福祉の現場に飛び込んでくる。今回は福祉施設などにおける実習とその受入れついて考えていきたい。


現場実習の目的とねらい
 福祉の人材育成にあたっては現場での実習が欠かせない。ホームヘルパーや介護福祉士、社会福祉士など福祉関係の資格取得には施設や機関での現場実習が必須となっている。
 平成10年からは小中学校の教員免許取得に際しても「介護等体験」(福祉施設などでの介護・交流体験)が課せられるようになった。現在では、県内各地の社会福祉施設・事業所で多くの実習生受入れが行われるようになっている。
 「福祉は人なり」といわれるように、人間の生活を支える福祉を職業とする人材になるには、座学による知識のみならず、対人関係を築くコミュニケーション能力、安全で適切な介護技術、相談援助技術を身につける必要がある。現場実習はそうした福祉専門職に必要な技能や理念を身につけ、就職や資格取得後の実践に生かすねらいがある。
 一方、実習生を受入れる施設や機関に対しては、現場での実践を通して、ケアや支援の技術、理念を実習生に伝え、次代を担う人材を育成するという大きな役割が期待されている。


やりたいことを積極的に提案 ―現場実習を経験して―
 現場実習ではどういう点を意識してのぞんだのか、沖縄大学福祉文化学科4年の上間和美さんに話をうかがった。
 社会福祉士養成では180時間の現場実習がカリキュラムとして位置づけられている。同資格を目指す上間さんは昨年、地元の読谷村社会福祉協議会で23日間の現場実習を行った。村社協では主に相談センター事業やミニデイサービスなど地域福祉活動の現場を体験した。以前からミニデイサービスなどに参加したことがあり活動のイメージはできていたというが、「毎日の業務を通じて色々なことが見えてきた。」と語る。そして、「青少年センターなど、これまで交流が少なかった機関とも連携を広げていけば、活動や支援の幅がもっと広がるのではないか」と感じるようになる。上間さんは以前から不登校児童やその親からの相談を受付けていた経験から、このような相談の場を設けることができないか、実習先へ相談した。受入れ担当者の協力もあり、実習後に相談活動を実現させることができた。この活動は現在でも週1回のペースで継続しているという。
 「実習中は『こういうことがしたい』」という要望をよく出していました。実習先の担当者の方もすごく理解のある方で、満足いく実習にすることができました。」と振り返った。
 実習の一日の終了時には日誌を書いたり、反省の時間を設けるなど、実習中の目標を常に意識している様子を感じることができた。上間さんのように主体的に実習に取り組むことは非常に重要だと感じた。


目的意識をはっきりと ―受入れ施設の視点から―
 現場実習を受入れる施設の担当職員は実習生にどのようなことを望んでいるのか、那覇市安謝複合施設で実習受入れを担当している新崎聡也地域福祉係長に話をうかがった。
      
 同施設では、毎年多くの実習生を受入れている。受入れに際しては事前説明会を設け、実習の趣旨と留意点を確認。施設職員が責任を持って実習指導できる人数に限定して受入れるなどの配慮を行い、限られた時間の中で有意義な実習が行えるよう工夫している。
「社会福祉施設ができる社会貢献として、教育の場を提供できたら」と話す新崎係長は、実習生に対する要望として「やはり目的意識をしっかりもって実習に取り組むことです。」と話す。「『自分は実習を通して何を学びたいのか』をはっきりさせることで、得られる成果は大きく変わってきます。資格取得の先にある将来の自分の姿をイメージして実習にのぞむことが大切です。」と強調した。
 「楽器の特技をもつ実習生が高齢者のために演奏したいと申し出て、演奏を披露したところ、高齢者に大変喜ばれたことがあります。施設が何をしてくれるかではなく、自分たちに何ができるかを考え、主体性を持って行動することが重要です。」と語った。
 施設側を訪れる実習生の中には利用者とのコミュニケーションに戸惑いを見せる者も少なくないというが、「思いやりやいたわりの気持ちが大切です。あとは普通にあいさつや声かけすれば、自然と会話が弾むはずです。」とアドバイスした。


現場でしか学べないことを ―養成校の担当者に聞く―
 沖縄大学福祉文化学科の上地武昭助教授に、実習生を送り出す養成校として、現場実習に寄せる期待について話をうかがった。
    
 沖縄大学では県内60~70ヶ所の施設や行政機関に年間約120名の実習生を送り出している。学生が実習を主体的に取り組めるよう、実習先は学生の希望をできる限り尊重している。上地助教授は、「学生の出身市町村もしくはその近隣で実習ができるのは、現場の理解、協力があってこそ。とても感謝しています。」と話した。
 実習に送り出すにあたっては、大学において必要な科目の履修はもちろん、実習先の事前学習や注意事項について確認を行っている。実習期間中には実習指導担当者が施設に訪問しての指導を行い、実習終了後にも振り返りを行うなど一貫した指導体制を設けている。
 現場実習が学生にもたらす効果については、「学校では学べないことが現場に行ったらたくさん経験できます。『百聞は一見にしかず』で、実習を通して目標がより明確になり、学生の福祉を学ぶ意識も大きく変わってきます。これはレポートの内容にも現れてきます。」と指摘した。
 今後の現場実習については、「県内の大学・専門学校の実習担当者間の連携も検討したい。」と話した。
 
施設実習のねらい
 主体性を育てる
 可能性を引き出す
 福祉職に向けて自己目標の具体化を図る

実習生受入れに際しての工夫事例
 事前説明会の実施
 目の行き届く人数を受け入れる
 実習活動の振り返り、フィードバック

実習生の心構え
 社会人としての最低限のマナーを守る
 (時間管理、あいさつ、連絡等)
 目的意識を持って主体的に行動する
 利用者の人権尊重(プライバシー保護等)


















最後に ―人材育成が福祉発展のカギ―
 
 社会福祉士、介護福祉士、精神保健福祉士などの専門資格が取得できる大学、専門学校が全国的に普及したのはここ10年のことである。これにより、本格的に福祉を学び、福祉の職場に就職するという道が整備されたことは、福祉業界全体にとって大変意義深いことだと考える。 
「福祉制度や援助技術を福祉の現場でどのように活用するのか」を福祉を学ぶ学生の時期から意識することは、将来にむけてとても重要である。
 施設実習という人間的にも大きな成長を与えてくれる機会を実習生、現場、養成校のそれぞれが大切にして、意義深い学びの場とすることが、将来の沖縄の福祉を良くしていくことにつながっていくのではないだろうか。






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福祉情報おきなわVol.102(2005.7.1)
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