福祉有償運送シンポジウム開催

県内福祉移送サービスの現状と課題を考える

 福祉有償運送シンポジウム(主催:沖縄県社会福祉協議会)が7月26日、沖縄県総合福祉センターで開かれ110人が参加した。
 第1部では「STサービスの制度の変遷と新たな方向」をテーマに首都大学東京秋山哲男教授による講演が行われた。
 第2部では「福祉有償運送の現状と課題」をテーマに、沖縄県における福祉移送サービス発展の経緯、現在の状況、運営協議会のあり方などについて話し合った。パネリストは沖縄県障害保健福祉課在宅福祉班長大城馨氏、那覇市社会福祉協議会地域福祉課長山城章氏、NPO法人沖縄県自立生活センター・イルカ理事長新門登氏、NPO法人ライフサポートてだこ代表松本哲治氏。コーディネーターは沖縄県社会福祉協議会事務局長山内良章が務め、アドバイザーとして秋山氏も加わった。福祉有償運送に対する各パネリストの提言をキーワードと共に紹介する。

「必要性」

 大城氏「福祉有償運送実施のためには市町村設置運営協議会での審議が必要であるが、一部市町村の担当者からは、NPO等団体から実施の要望がなく、また自治体としても移動支援事業を行っており、協議会を設置する必要がないという声が聞かれる。実施を希望する団体は、その必要性を今一度、市町村へ訴えていただきたい。また、担当者は障害者等の置かれている実情を見て、把握し、運営協議会の必要性、福祉有償運送の必要性を考えていただきたい」

「適正な公的財源 移動支援の保障」

山城氏「那覇市社協の福祉移送サービスの実績から分かったのは福祉移送の収益性には限界があるということだ。それでも需要は大きく社協では移送サービスを継続的に実施してきた。移動権の保障を考えたとき、適正な公的財源による助成がやはり重要になってくる。また、一事業所で実施するから効率が悪いのであり、複数の移送サービス機関をまとめた配車センターの設置が必要だ。県内の福祉車両は助成分を含めて相当数があり、団体間の連携により効果的な運用が可能である。」

「交通弱者といわれないための移動権獲得」

 新門氏「われわれ当時者は、ときどき交通弱者という言われ方をするが、当事者が弱いのではなく、移動制約者に対応できない既存の交通体系に問題があるといえる。私たちも皆と同じように、好きな時にバスに乗り、出かけ、遊びに行き、買い物をしたい。しかし、こうした会議への参加すらも、障害者、高齢者は直ぐにはできない状況にある。生存権に加え、移動権ということも声にしていかなければならない。」

「未来協議会」

 松本氏「現行の福祉有償運送制度は問題点も見られるが、実際に移動に困っている人が目の前にいる限り、われわれは何かをしないといけないと思った。特に養護学校へ通う子どもたちの輸送をどうにかしたい。わたしたちNPOが浦添市に運営協議会設置の要望を行ったのは、福祉有償運送実施の審議を行ってもらうためだけのものではない。広く他の団体にも呼びかけ、行政、福祉関係機関、タクシー等交通機関、当時者、家族も含め、浦添市において移動制約者の足をどうしていくのか、交通体系を考えていく場、未来を考えていく場の設置を要望したつもりだ。」

「運営協議会は次の段階へ」

秋山氏「運営協議会設置の必要性を行政関係者が感じていないとすれば、問題だ。潜在需要はサービスがなければ顕在化せず、当時者は外出しなくなってしまう。未設置であることがより潜在化させる危険性がある。那覇市社協では、収益にならずとも移送サービスを提供しているというが、必要性の大きさの表れである。申請がないから運営協議会を設置しないということは、障害者の移動権確保という点から問題だ。設置要望がないからやらないというのは、人権を奪うことに等しい。」
「運営協議会は新しい段階に入ってきている。多摩や杉並区では、配車センターを設置し、利用者からの問い合わせを一括して受付け、実施団体に振り分けている。運営協議会は福祉有償運送実施団体の適正を審議する場に止まらず、障害者・高齢者の移動の権利を守るためにどうするのか協議する場として機能しはじめている。現在の福祉有償運送制度は、日本の踏み出した第一歩。アメリカやイギリスのようにこれから二歩、三歩と進んで行くだろう。制度的な課題はあるが、活用していくことが重要だ。」
 パネルディスカッションでは、県内における福祉移送サービスの現状、運営協議会におけるこれまでの議論、協議会の将来的なあり方などについて活発な議論が行われた。中には福祉有償運送制度の問題点を指摘する声もあり、課題も含め、沖縄における福祉有償運送の現在を多角的に捉え、将来へと繋がる内容となった。
 沖縄県社会福祉協議会では、昨年9月に開催した「福祉有償運送セミナー」をはじめ、制度が本格化した平成16年から福祉有償運送に関する継続した取組みを行っている。今後も、福祉有償運送研究会開催や、インストラクター養成講習などを検討しており、誰もが自由に出かけられるユニバーサル交通の実現のために努めていきたい。

講演「STサービスの制度の変遷と新たな方向」



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福祉情報おきなわVol.115(2007.9.1)
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▲パネルディスカッションでは、熱のこもった議論が行われた

▲熱心に聞き入る参加者

▲パネリスト 大城氏、山城氏、新門氏、松本氏(左から

特集

シンポジウム第1部では、首都大学東京秋山哲男教授による講演が行われた。

内容の一部を紹介する。

 移送サービスの対象となる「移動困難者」とは、身体・精神的理由で公共交通を利用できないか、利用において困難を伴う人をいいます。具体的には、要介護高齢者や重度・中度障害者を指し、東京都杉並区・世田谷区の例でいうと、人口の2.0~2..5%にあたります。
 移送サービスの特徴としては、対象者が限定されていること、事前の予約が必要であることなどがあげられます。運行の主体としては、日本ではタクシー会社、NPO、社会福祉協議会などが運営を行っています。
 日本の移送サービスを海外と比較しますと、人口の近いサンフランシスコと世田谷区の例では、サンフランシスコが年間121万トリップ(一人当たり71トリップ)、世田谷区で6万1千トリップ(一人当たり3~4トリップ)と何十分の一しかないことが分かります。
 公共交通、道路などのバリアフリーに関しては、日本は世界のトップグループにいますが、移送サービスについては、イギリス、スウェーデン、カナダ、アメリカなど先進国の足元にも及ばないのが現状です。
 今後の課題としては、移動困難者に対する公共交通の取組みが弱いのでこれを強化すること、また遅れている移送サービの推進があげられます。移動困難者の需要に応えるためには移送サービスのみでは限界があり、公共交通の取組みが不可欠です。例えば、サンフランシスコでは一般のタクシーがスロープを持ち福祉移送サービス車輌としても活用されており、移送サービスの約6割を担っています。
 また自治体の取組みとして、NPOやボランティアの支援に加え、各団体の移送サービスをまとめて提供する情報配車センターなどの整備も重要です。海外では、そういった配車組織が機能しており、日本でも町田市、世田区などで取組みがはじまっています。