特集 見つめよう 音楽療法の可能性

 音楽は私たちの生活に密着した存在である。子どもから高齢者まで誰でも一曲は唄える歌がある。気持ちを和らげ、運動を助け、記憶を蘇らせてくれるという効果を利用して、福祉の現場でも音楽を用いたレクリエーション等が取り入れられている。今回は音楽療法の効果や実践について紹介する。

 音楽療法=音楽利用法
 
那覇市久茂地にある「児童デイセンターアンカリヨン」「デイサービスいきいき」の代表で音楽療法に詳しい高良幸人さんに音楽療法とは何かについて話をうかがった。「分かりやすく言うと、音楽療法とは、音楽を利用する方法のことです。」と高良さん。「音楽がもつ自然の力やリズムを利用して人間に備わっている生活リズムや生体リズムを整えるお手伝いをすることが音楽療法の役割」だと話す。
 専門家による医学的治療に重点を置いた音楽療法のみならず、余暇を楽しく過ごすためのツールとして音楽を用い、楽しみながら心身への効果を引き出す方法も音楽療法といえる。




 身体に心にプラス作用
 
音楽は心身にさまざまな効果をもたらしてくれる。音楽を聞くことで気分を落ち着かせたり、逆に高めたりすることができる。リズムに乗って手足や身体全体を動かすことで、脳へ適度な刺激が伝わり活性化する。また、歌を唄う中で自然と腹式呼吸になり、横隔膜の運動が内臓の機能を高めたりすることにつながる。さらには血圧や脈拍を整えるといった生理機能や免疫機能への効果も指摘されている。このほかにも、生きる意欲が喚起されることによる相乗効果や生きがいづくりへの発展も期待される。このように、音楽を利用することで、楽しい雰囲気の中、無理なく機能の維持や回復の促進を図ることができる。
「音楽と思いやりは、参加者にとって多くの喜びと充実感をもたらすことができる。参加者を保護するために音楽活動があるのではなく勇気づけるために音楽療法がある」と高良さんは話す。
 音楽のもつ効果を利用した音楽療法の実践は、介護予防、知的障害や精神障害、高齢者、認知症高齢者、終末期ケア、自閉症など様々な分野で可能性を広げている。

 みんなで参加、会話も弾む
 音楽を利用した活動を行う際の留意点は、参加者全員が楽しくその場にいられる環境を整えることが大切となる。まず、参加者のその日の状態がどうなのか、気持ちは乗っているのかという点に注意を払う必要がある。いきなり音楽を流しても、参加の強要、押しつけの楽しさにつながりかねない。そうすると、利用者にとって音楽が逆効果となって作用してしまう。福祉の現場では職員が指導に当たる場合が多いが、参加する利用者や児童とコミュニケーションの中からこの日の曲や活動を選択する必要がある。
 参加者との会話の中から曲に関するエピソードを聞き出したり、それをもとにその時代の流行や体験を回想することで、参加者間での意思疎通や感情表出を助け、音楽の活動をより効果的に行うことにもつながっていく。
 また、曲の演奏や歌を唄う際には全員が参加できるような工夫が必要となる。リズムを取ることが苦手な参加者(特に高齢者)には、指導員や職員が大きな動作で手拍子を打ったり、側について肩をたたくなどしてリズムをとってあげることで、歌いやすく演奏しやすい環境設定ができる。歌の際には歌詞を大きく書いて貼り出したり、今歌っているパートを指差すなど「先読み」してあげることで、全員が参加しやすくなる。また、音程を相手に合わせて調整してあげる事も大事な要素となる。

 工夫次第で楽しさ倍増
 自由な発想や創意工夫で活動の幅も広がってくる。演奏に用いるものは市販の楽器以外にも身近な生活用品を楽器に作り変えて代用できる。例えば、ペットボトルに豆などを入れてマラカスにしてみたり、洗面器の裏面を太鼓に使ったりすることもできる。
 四肢に障害を持っている児童の場合でも、動きやすい体勢に合わせて楽器を配置することできちんと演奏が可能になったりする。音楽療法では音楽の要素を利用しての心理的サポートを行うことが鍵となるため、その活動についていけない人の心理状態に視線を合わせることが大切である。参加者それぞれが自分の意思どおりに音が出せるように工夫することが音を楽しむ活動の第一歩となる。
 
 音楽療法の現場から
 実際に、高良さんの運営する児童デイセンターアンカリヨンで音楽療法を体験している利用者へ話をうかがった。那覇市在住の新城貴美子さんと娘の若菜ちゃん(小3)は音楽療法を取り入れたプログラムを週2回利用している。1回のプログラムは30分~1時間程度で、マンツーマンで指導を受ける個別活動とグループで参加する少集団活動を受けている。当初は発声がうまくできなかったものの、開始して1年が経過し、口の動きをまねてあいさつや単語の発声が行えるようになってきた。新城さんは、「音楽のリズムに合わせることで声が出すきっかけを覚え、発声がスムーズにできるようになってきました。」と効果を語る。児童の発達に関係する要素はたくさんあるが、音楽を通しての働きかけが、効果的に作用しているようだ。
 
 音楽で可能性を切り拓く
 音楽療法は、機能の回復を目指す「リハビリ」というよりは、むしろ、音楽を媒体として、自らの行動の可能性を引き出していく「ハビリテーション」の視点が大切となるのではないだろうか。障害者や高齢者がより良い状況で社会生活が送れるように音楽を媒体として働きかけることで、参加者の新しい喜びや可能性を引き出すハビリテーションが生まれる。
 すでに多くの福祉現場でも音楽を利用した実践が展開されている。デイサービスで民謡をBGMに体操や踊りをしたり、保育園でお歌やお遊戯をする光景はどこの現場でも見かけることができる。余暇やレクとしての音楽であるが、その場に参加する利用者へ園児にプラスに作用するよう利用したいものである。音楽を使った実践を利用者へ提供するサービスの一つとして捉えなおし、改めてその効果について検討・工夫を重ねることで、さらなる可能性が広がっていくと思う。

鍵言葉~キーワード~
 『音楽療法士』
音楽療法士とは、日本音楽療法学会が認定する資格で、音楽療法に関する知識と豊富な臨床経験を身につけ、痴呆症や自閉症、精神的ダメージを負った人たちに、音楽を通して心理療法を行う専門家を認定する資格である。
現在までの資格取得者数は累計で1063名。資格取得後は福祉や医療・保健の分野で幅広く活躍している。音楽療法士を養成する専門学校等も設立されており、社会的認知の広がりを見せている。

『ハビリテーション』

 リハビリテーションが損失・低下した機能を取り戻すための働きかけであるのに対し、ハビリテーションはその人の心身の発達を促進し、新たな可能性や能力を引き出すための働きかけである



取材協力:児童デイセンターアンカリヨン(那覇市久茂地2-14-13 上原ビル)



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福祉情報おきなわVol.103(2005.9.1)
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